October 24, 2009

ノラ博士の比ではないノラ司書の現実

 高学歴ワーキングプアと比べたら、有資格ワーキングプアのほうがはるかに地獄と言いたい。もうそこは阿鼻叫喚の血の池地獄、無間地獄としか表現のしようがない。

 司書の資格を持っていない人から見れば、図書館なんて極楽のように思っているかもしれない。知的で、優雅で、時間的なゆとりがあって、恋愛ごっこだって、戦争ごっこだって、、、おっと、これはフィクションの世界だ、まあ、楽そうな世界だと思っているだろう。現実はそんなものではない。公共図書館は利用者を幅広く受け入れる。組関係の人、つまり暴力団関係者だって、ホームレスだって、心に病を抱えた人だって、不平不満が心に渦巻く人だって、特に社会的弱者を受け入れる。利用者のすべてが、読書を趣味として、知的で、穏やかな人ばかりとは限らない。カウンター担当の職員は気苦労が絶えない。図書は意外と重い。業者から入荷した資料を運ぶのはかなりの重労働で、図書館の若い非常勤職員は怖気づいて運んでくれないし、学校の先生を退職した派遣職員は腰が痛くなるからと言って嫌がる。配架もかなりの労働で、首、肩、腰をかなり酷使する。ボランティアの人は配架を3時間するとへたばる。結局、少ない専門職員の司書が仕事を抱え込むことになる。

 ノラ博士が10万人いるらしいが、正規職員になれない司書資格を持った人は10倍、いや、20倍はいるだろう。もっとかもしれない。ノラ博士を日本の貧困層に例えれば、ノラ司書は中国の貧困層、インドの貧困層といっても過言ではない。

 Falconも加担しているので、あまり酷いことを言いたくないが、大学院に進学する者たちを国が政策によって騙しているのではないかというなら、司書講習、司書課程は司書になる夢を多くの人に抱かせている。資格を取っても、それ相当の努力をしなければ、図書館職員にはなれない。
 しかも、司書講習の受講条件は短期大学卒以上か大学3年生以上、司書補講習の受講条件は高卒以上なので、司書講習には4大卒が最も多いが、短大卒から大学院、それも超一流大学の大学院修了者までが受講する。学力に幅があるので、司書講習ではレベルに合わせた講義がしにくい。講師も偉ぶって講義はできない。恐る恐る講義をする。下手をすると、掲示板に書き込みされるからだ。

 受講生の立場に立つと、そうやって苦労して資格を取っても、ほとんど仕事がない。仮に就職のチャンスがあっても、そのチャンスは年齢が上がるに従って、半減する。22歳の時のチャンスを1とすれば、23歳の時のチャンスは2分の1、24歳の時のチャンスは4分の1、25歳の時のチャンスは8分の1と減っていく。これを機会半減の法則という。30代、40代では、正規職員になるチャンスは限りなく0に近い。雇用が不安定でも非正規職員になれる確率は高いけど。

 Falconも伊達に大学で図書館について教えているわけじゃない。大学を出て、親や親族に反対されながらも、2年間、図書館関係のアルバイトをして、空気を吸うのもつらくなるような思いもしたことがある。大学院をポッと出て、大学の先生になれたわけでない。だから、論文を書いて、図書館情報学を教えている人のことが恨めしく思うこともあり、ときどき相手の気持がつかみきれない場合がある。
 思えば、自分がノラ司書だったころの気持を捨て切れていないのかもしれない。

13:06:20 | falcon | comments(0) | TrackBacks

またまた通りすがりさんへ

 明治大学の米沢嘉博記念図書館のことですね。

 今年の夏に開館すると聞いていたのですが、10月末にオープンするようです。ちょうど同じ頃、全国図書館大会が今年、明治大学駿河台キャンパスで開催されますし、引き続き日本図書館情報学会が同じく明治大学駿河台キャンパスで開催されます。

 実は明治大学へは良く足を運んでいるので、知っていました。

 ちなみに『ココロ図書館』『とある魔術の禁書目録』『図書館戦争』シリーズ、そして『司書とハサミと短い鉛筆』でおなじみのアスキー・メディアワークスの本社が近くにありますね。

 久しぶりに、この話題。

 『ダンタリアンの書架』は角川文庫だったっけ?

02:12:18 | falcon | comments(0) | TrackBacks

「早く専任になりたあーい!」という悲痛な叫び

 昔、『妖怪人間ベム』というアニメ番組があった。オープニング・ソングの決め台詞は「早く人間になりたーい」だった。

 今、水月昭道著『アカデミック・サバイバル:「高学歴ワーキングプア」から抜け出す』(中公新書ラクレ)を読んでいる。『高学歴ワーキングプア』(光文社新書)の続編とも言える。すでに『高学歴ワーキングプア』は、このブログで取り上げた。



 著者の主張に納得できるところもあるが、専任の大学教員になれば、それなりに厳しい現実が待っていることをしっかりと伝えてほしい。今回の著作で、売れっ子の大学の先生が忙しいことを書いているが、多くの大学の専任教員が多忙を極めている。一般の会社員や公務員と違って、9 to 5の時間的な拘束はないけど、講義の準備、学生への対応、委員会、レポート・論文の査読、受験生の確保のために高校周り、オープンキャンパス、入学試験の監督など、ゆっくり研究に勤しむ時間は無い。最近では、大学の事務職員が削減されて、以前なら講義の前に「学生の人数分、コピーしてください」と職員にお願いできたことが、「あたしたち、先生の授業のコピーするために雇われているわけではありません!」とけんもほろほろに突き返される。(えー、あなたたち、何で大学に雇われいるの!)と言ってやりたいけど、ぐっとこらえて、苦笑いしながらコピー機の前に立つしかない。専任教員は大学の職員に気を使いながら学生たちに講義をしている。
 所得が少なく、辛くても、夢を見ながら、自由な時間を使って、論文を書ける非常勤講師のほうが、と思いたくなる。
 大学の専任教員は、もはや楽して稼げる優雅な商売でなくなっている。

 大学の専任教員はダブついている。
 第二次ベビーブーム世代が大学に入学してきたころ、1980年代末から90年代前半、日本では受け入れる大学が不足して、新設大学、学部・学科の増設が相次いだ。バブル経済は崩壊したばかりで、不況とは言え、海外旅行へ出掛ける人は一向に減る気配が無かったくらい日本経済は余力があった。しばらくは新設された大学や増設された学部・学科でジャンジャン大学教員が雇われたが、加速する少子化と急激な景気の落ち込みにより、入学する学生が減ってきた。それでも進学熱があったので、学生は少子化にもかかわらず、大学を維持できる程度、入学していた。ということは、30年前、20年前だったなら、大学に入れるはずもない学力の低い学生が増大している。さらに世界的な景気低迷が襲い、入学定員を確保できた大学でも、最近の教授会では毎回、家庭の経済的な困窮で学費を払えず、自主退学している学生の報告が相次いでいる。
 事実上、日本の大学教育は崩壊寸前である。国文学を学ぶ学生が古典文法を全く理解できていない、高校の勉強を復習しないと講義ができないところまで、学生のレベルは低下している。大学教員は学生たちを前にして、講義で黒板に書かずに、同音異義語の漢語表現、つまり同じ発音をする熟語を使って話せない。「支持している」と言っても、「支持」「指示」「師事」なのか伝わらないくらい学生たちの理解力が低下しているので、黒板に書くか、配布物で確認させるか、やさしい表現に置き換えないと講義が進まない。
 大変悲しいことだが、大学がどんなに大きな手を広げて受験生を受けとめようとしても、入学者は来ない打ち止めのところに達している。今、現職の専任教員の給与を維持していくのがギリギリである。だから、ノラ博士が「早く専任になりたあーい!」と大学の校門で悲痛な叫びをあげても、大学関係者は「いずこも同じ秋の夕暮れ」としか答えられない。

 今回の著書の冒頭のほうで、京都大学の図書館で非常勤職員をしていた人が首を切られたこと、つまり雇用打ち切りになったことを抗議しているエピソードがあった。著者が、東大卒で京大で修士課程を修了して京大の図書館で職員をしていた人をインタビューしている。
 公立図書館、大学図書館、学校図書館、そして国立国会図書館までも、多くの非正規職員に支えられている。非正規職員の多くに雇用期限があり、専門的業務蓄積ができない。図書館の世界では、今に始まったことではない。二十年くらい前から慢性化している。
 このエピソードで、厳しいことを言いたくないが、雇用を打ち切られた人たちは、図書館の非常勤職員は雇用が不安定で、けして恵まれた状況ではないのは十分承知していたと思う。図書館の仕事を愛して、東大の文学部を卒業し、京大の修士修了くらいの能力があれば、国立国会図書館職員採用試験、あるいは国立大学法人職員採用試験を受ける気はなかったのであろうか!?京都大学の図書館で、何も知る手段もなく、ただ奴隷のように働かされたと思えない。Falconのように東京の中堅大学を卒業して、図書館関係でアルバイトをしながら、必死になって勉強して、公務員試験に合格したのとは、わけが違うでしょう!
 心のどこかで図書館の雰囲気に浸かって、甘えていたとしか思えない。京大図書館を相手に抗議する勇気があるなら、堂々と試験を受けて職員になればいいと思った。泣く子も黙る東大卒なら、国立大学法人職員採用試験なんて、赤子の手をひねるくらい簡単だと思う。国立国会図書館職員採用試験の1種試験は採用者が少ないとはいえ、2種試験くらいなら受かるはずでしょう。
 申し訳ないけど、このエピソードだけは全く同情の余地が無かった。

01:48:02 | falcon | comments(1) | TrackBacks