March 13, 2007

物語の役割

 小川洋子さんの『物語の役割』(ちくまプリマー新書)を読みました。
 3つの講演をまとめたもので、とても読みやすく、物語をつくる小川洋子さんの考えが丹精こめて、誠実に語られています。
 ただね、残念なというか、欲を言えば、取り上げるさまざまな作品が深刻なテーマのものが多いので、明るく楽しい、スカッと爽やかな作品も取り上げて欲しかったなあーと思います。
 人間の死、極限状態、悲しみと再生、失った恋への報われない思いというテーマのほうが、物語の題材になりやすいし、人の心を揺さぶり、思いを深くすることができます。明るく楽しい、知的興奮を呼ぶ作品も、必要なときがあります。
 取り上げられた作品の中でも、『ファーブル昆虫記』のスカラベ・サクレ(糞転がしの甲虫)の小川さんの語り口は、最高に活き活きとしていました。Falconも子どものころ読んで、感動して、虫を観察するのが大好きな少年になりました。
 どぶで取ってきたボウフラも飼っていたんですよ。腰をくねくねして、水面を漂う姿は、ユーモラスで可愛いんだから。尾のほうで空気を吸って呼吸しているんですね。蛹になると、茶色く変色して、オニボウフラと呼ばれます。この姿も、渋い貫禄がある。蚊になると、哀れっぽくなる。メスは血を吸い、オスは水しか飲まず、群れなして、蚊柱となって、メスとの交尾を待っている。性分だから、仕方ないけど、「ブーン」と音を立てて、人肌に止まって、血を吸うさまはスタイリッシュに見える。でも、叩かれて、つぶれる様は、悲しい。
 ああ、やっぱり、悲しい話になってしまった。

Posted by falcon at 03:29:51 | from category: Main | TrackBacks
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