April 05, 2010

ビートたけしがフランス人にウケル理由

 1991年、フランスの芸能界は2人の巨星を失った。

 春3月に奇才セルジュ・ゲインズブール(フランス人はガンズブールと発音するけれど)がこの世を去り、11月枯れ葉の季節にイブ・モンタンがこの世を去った。

 この2人、一見すると対照的な性格と言っても良いかもしれない。
 帝政ロシアの圧政を逃れたユダヤ移民の息子として生まれ、反逆的な行動で注目を集め、多くの美女たちと浮名を流したセルジュ・ゲインズブールと、イタリア移民の息子として生まれ、エディット・ピアフに見出され、シャンソン歌手・俳優と第一線で活躍したイブ・モンタン。フランス人の間でも、今でもゲインズブール派とモンタン派に好みが分かれるといわれる。

 実は二人は「枯れ葉」でつながっている。映画『夜の門』の挿入歌として、詩人のプレヴェールと作曲家コスマの『枯れ葉』をイブ・モンタンは唄った。
 ゲインズブールは『枯れ葉』を称えて、『プレヴェールに捧ぐ』を作詞・作曲する。『枯れ葉』はよく知られているけれども、『プレヴェールに捧ぐ』も名曲である。ゲインズブールは反逆的な奇行と中年以降のだらしない風貌が目立ち、偏見を持つかもしれないが、彼の作詞作曲した歌は機知に満ちて美しい旋律が心に残る。日本ではドラマ『美しい人』の主題歌で『無造作紳士』というタイトルでジェーン・バーキンの歌がヒットしたけれど、「それが何になるのさ」というA quoi bon!というフレーズに人を表す-iste
を付けた、L'aquoibonisteというタイトルになっている。「それが何になるのさ!」が口癖になった人を指している。プレヴェールの詩も巧みな言葉遊びがあるけれども、ゲインズブールの言葉遊びは巧妙である。これを「言葉への感性」というならば、私は頷く。「情緒力」「祖国愛」が「感性」なんだという世迷い言をほざく学者たちの意見を答申とした審議会のメンバーの感性は陥穽に落ちたとしか思えない。

 で、何が言いたかったかと言うと、ビートたけしさんがフランス人にウケルのは、ゲインズブールの流れを汲んでいるのでウケルのではないかというのが、私の仮説である。
 たけしさんの映画は日本人には残念ながらウケナイ。
 ゲインズブールは作詞作曲するシンガーソングライターなのだが、映画監督も俳優もこなすマルチタレントなのだ。ビートたけしさんはゲインズブールの残像を揺曳させている。知的な毒舌ぶりもゲインズブールを意識している。

Posted by falcon at 23:55:22 | from category: Main | TrackBacks
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