March 29, 2010

ローマとくれば風呂

 去年から気になっていたコミックがあった。
 『テルマエ・ロマエ』だ。ただ、表紙のジャケットにギリシア彫刻のような男のハダカが描かれている。もし内容がヤバかったら、人目を憚る。
 王ブラで紹介されて人気に火が付いたらしい。それならば、安心だ。そして購入した。

 別にヤバくなかった。多少それなりのエピソードは出てくる。なにしろ風呂だから。
 ローマ帝国時代と現代の日本をタイムスリップするローマの若い技師が主人公なのだが、時代が五賢帝のひとり、ハドリアヌス統治のころだ。ハドリアヌスの時代はローマ帝国が空前絶後の繁栄を迎えた時代だ。ハドリアヌスはギリシア文化にあこがれ、妻が居ながらも、美少年を愛した皇帝だ。それなりの危険な雰囲気が漂いながらも、ちっともエロくない。
 そんなことはどうでもいい。その若い技師が風呂に入ると、なぜか突然、現代日本の風呂や温泉にタイムスリップしてしまう。そこで、日本の優れた技術にたじろぎ、ローマ人の誇りを胸に秘めて、見聞を深めて、古代ローマへ日本の技術と着想を持ち帰る話だ。

 読み始めた時は男性が描いていると思った。作者のエピソードでイスラム圏のハマムへ行った話があって、女風呂に入ったと書かれてあったので、そこで作者が女性であることがわかった。何しろ、カタカナで著者名が書かれてあったので、注意深く考えなかった。

 図書館学の視点でコミックをながめると、面白い。
 パピルスの使い方が笑えたし、興味深かった。
 コミック本の最後で、主人公の技師の妻が離縁を書き残す面で、蝋板が出てくる。これは木の板を浅くくりぬいて、そこにミツバチの巣から作った蜜蝋を流し込み、固まったらば、金属の棒で傷をつけて文字を書きつける。文字を消すとき、書きなおすときには、蝋を溶かして、冷やして固めて、書く。何度も書き込めるので、ヨーロッパでは古代から中世まで、ノート(覚書)、手紙、裁判所の記録などに使われたメディアである。古代ローマ人は蝋板を手紙として用いて、恋文のやり取りをしていた。

 時代設定は異なるが、ロバート・ハリス著『ポンペイの四日間』(ハヤカワ文庫,2005)を思い起こさせる。こちらは、およそ60年前の皇帝ティトゥスの時代である。この小説は深刻な内容だけれども。

Posted by falcon at 13:17:09 | from category: Main | TrackBacks
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