January 12, 2010

『悪人』について

 年末年始、思っていたよりも、読書ができた。
 吉田修一著『悪人』(朝日文庫)を正月に一気に読んだ。
 この季節、年末年始に読むと臨場感が湧く。ちょうど12月から1月にかけて、起こった出来事がつづられているからだ。登場人物たちと一緒に寒さが実感できる。夏に読むと、冬に放送されたテレビドラマで厚手のセーターを着込んだ俳優たちの演技を、汗をかきながら見るようなものになる。体感できる読書である。

 ストーリーを書くとこれから読む人の興味を半減させるから、あまり書きたくない。

 舞台となるのは、九州地方の福岡県、佐賀県、長崎県で、長崎出身の作家が書いているので、登場人物の会話で九州弁を多用している。
 九州には友人が何人かいる。なので、九州弁を理解するのに苦はなかった。尤も長崎弁、大分弁は標準語にアクセントが近いので、方言があまり気にならない。
 大分の友人の話し方は、性格にもよるのかもしれないが、おっとりしていて、柔らかい口調だった。
 東京人の偏見かもしれないが、九州でも、熊本県、鹿児島県、佐賀県出身の人の話し方はちーとキツク感じる。武家の流れを汲むことを誇る人は特にその傾向が強いと思う。小学校高学年の時の女の先生が佐賀県出身で、やたらと厳しかった。あまり厳しいので学級会の時に級友たちと図って「先生のスパルタ教育にはついていけない」と盾を突いて糾弾したことがある。思えば、あの頃から「学級崩壊」があったんだなあと思う。先生なりにFalconの態度には手を焼いていたのだろうけど。

 『悪人』は登場人物が微妙に関係しあって、それぞれの視点で、起こった事件のこと、容疑者についてを語ってゆく。視点が次々に代わるので、初めは読みづらかったけど、慣れてくるとテンポのよいリズムになってくる。
 この手法、いろいろな小説で取り入れられているから、今では目新しい気がしないけど、似ているなあと思い出したのが有吉佐和子著『悪女について』だった。
 週刊誌に連載しながら、テレビドラマが同時進行するという、当時としては画期的なメディアミックスの手法だった。
 富小路公子という女性の謎の死をめぐって、20人以上の人物が証言を繰り返していくドラマだった。死の真相が暴かれるだけでなく、一人の人間の多様な性格・側面を描く点で、ある意味、不気味な怖さがあった。主演は劇団四季の女優だった影万里江さんで、ドラマの後、しばらくして脳腫瘍で亡くなった。証言をする共演者は豪華キャストだった。しかも、演ずる俳優の性格付けに沿って、ドラマが描かれている。
 『悪人』と『悪女について』、タイトルも奇妙に似ている。

Posted by falcon at 18:18:47 | from category: Main | TrackBacks
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