August 21, 2008

コメントについて

 コメントありがとうございます。
 『図書館戦争』の件については、心情としては幕引きとしたいのですが、コメントを頂いた以上、発言に責任をとります。

 「ライトノベルが文学なのか、文学という高次なレベルから考えると、問題ばかりが目立つのではないか」という考えを提示されたと思いますが、Falconの考えではライトノベルもケータイ小説も児童文学も純文学も言語による作品と思っています。森鴎外と夏目漱石の小説が高尚で、ライトノベルとケータイ小説は低俗とは思っていません。そもそも、文学に高尚も低俗もなく、エンターテイメントとして楽しめれば、それなりに素晴らしいと思っています。知的な興奮を引き出すような、あるいは感情を放出させるような言語表現に出会えれば、読者としてうれしく感じます。その点で、『図書館戦争』シリーズは読者として大いに楽しめました。
 しかしながら、図書館職員として働いた経験から、図書館職員が真面目に働いている姿を少しでも描いてほしいと思って、小説で茶化すのはやめてくださいとブログで述べたのです。『図書館内乱』『図書館危機』『図書館革命』へとストーリーが展開するにしたがって、いくらかは図書館職員らしい姿を描いていると思いますが、フィクションとしての脚色が勝っています。
 アニメのなかで砂川がブログで、ある作品を「荒唐無稽、支離滅裂」と批判していましたが、私は『図書館戦争』シリーズそのものを「荒唐無稽、支離滅裂」と批判していません。脱線や無理があるものの、閉じられた世界で話の論理は筋の通った作品になっていると思います。その点は評価するべきでしょう。

 この一連の騒動を通して感じたことは、図書館職員、あるいは司書がまだまだ専門職として認められていないことです。作者・有川氏は『ず・ぼん13』のインタビュー記事で「悪徳警官を描いたからといって、警察が文句を言ってきたことがあるのか」という趣旨の発言をしています。ですが、テレビや小説などで医師や弁護士を描くときには、専門職として描くために、実際の医師や弁護士が監修して、事実に反しないように描いています(『Tomorrow』、『モンスターペアレント』楽しみに見ていますよ)。
 病院を舞台としたポルノ映画で男優さんや女優さんが演じている医師や看護師を見て、専門家である医療関係者が苦情を言ったら、その医療関係者が嘲笑われても当然でしょう。病院や医師、看護師はただの設定で、監督が描こうとして、観客が見たいことは、別のところにあるわけです。
 『図書館戦争』シリーズが、単に図書館と職員を設定として使って、全く別のことを描こうとしたとは思えない。やはり、作者は実際の図書館のことを十分に理解しないまでも、作者の個人的な興味関心と混ぜ合わせて、図書館の問題を描こうとしている。
 作者が描こうとした図書館と図書館職員(司書)に問題あると指摘できない、あるいは指摘しても作者の表現への妨げと受け取られてしまうのは、図書館職員の専門性が十分に認知されないからでしょう。

 ともあれ、『図書館戦争』シリーズは、日本で図書館が少しづつ認知されつつあることを示した点で、ありがたい作品です。喩えが良くないですけど、ポルノで病院が設定になるのと同じくらいに、図書館が日常生活に密着してきていることなのでしょう。

Posted by falcon at 02:18:47 | from category: Main | TrackBacks
Comments

文学部の大学生:

丁寧な返答、ありがとうございます。
正直な話、私自身が「文学」がなんであるかを理解しきっていないので、なんだか変な論理になっていなかったか少々心配です。

確かに「図書館戦争」では『図書館』は記号として扱われていなかったように思います。文面を何度か読み返していくうちに、Falconさんの言われていることは、かなり的を射ていると改めて思いました。

返答を読んでいて、高校のお世話になった司書教諭のかたが、海外に比べて日本は司書という仕事の整備が大幅に遅れている、重大性が認知されていない、という話をされていたのを思い出しました。

勝手に過去の記事を掘り返してきて、申し訳ありませんでした。大変貴重なご意見、とても参考になりました。ありがとうございます。
(August 31, 2008 05:34:41)
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