June 30, 2008

これが検閲の実態なのか

 先日、書店で目にとまった本を読んでいます。

 西尾幹二著『GHQ焚書図書開封:米占領軍に消された戦前の日本』徳間書店



 太平洋戦争の戦前・戦中においても「思想善導」の名のもとに、検閲が行われたことはよく知られていますが、戦後もアメリカの占領下において出版物の取り締まりが行われたことを本書は明らかにしています。
 以前、紙芝居に関する本にも、GHQにより紙芝居が検閲を受けて没収されたということが書いてありました。没収された紙芝居の中には俗悪なものもあり、子どもに見せるのは好ましくないものも少なくなかったそうです。今では紙芝居といえば、幼稚園・保育園、学校、図書館などで、教育的な配慮のされたものと思われていますが、昔の紙芝居は暴力、エログロ、低俗の三拍子そろったのが定番でした。戦時下では国威発揚をあおる内容や、反戦を訴えるものなど政治色のある紙芝居も多かったようです。救いがあるとすれば、よしんば、勧善懲悪の「鞍馬天狗」「丹下左膳」、お涙頂戴の少女ものぐらいでしょう。

 西尾氏の著作で興味深いのは、初めの第1章と第2章です。GHQが行った検閲というのは、出版流通をおさえて、根こそぎ出版物を押収して、中身を吟味して、取り締まったタイトルが7769点になるそうです。とはいえ、個人が所有するものと図書館の蔵書は除外されたそうです。拘りではなく、関わった成り行きで連想するだけですが、まるで『図書館戦争』みたいな話ですね。かといって、GHQに対抗すべく、図書館が武装組織を配備して、戦ったわけではなく、当時の社会があっさりと検閲に応じてしまったわけです。敗戦国だから仕方ないのですけど。
 ただ、西尾氏の著作で残念なのは、肝心なところは「謎なんです」とはぐらかされてしまいます。一般書なので、はぐらかされても、読者は文句は言えませんが、謎が解明されたことを読みたかったなあと思います。
 それから、第1章の最後に脈絡が明確でないまま「岩波書店は日本共産党に占領された出版社」と書かれてあります。これを読んだ瞬間、谷沢永一、渡部昇一著『広辞苑の嘘』光文社を思い浮かべて、がっくりきました。まあ、西尾幹二氏は保守系の思想家ですから、谷沢氏や渡部氏と論調が同じなのでしょうが、上記のような主張をするにしても、もう少し慎重に論証を重ねてから、読者が少しは腑に落ちる書き方をしてほしかったなあと思います。いきなり「君はどうせ戦争反対の左翼だろ!」と怒鳴られたら、返す言葉もありません。
 アメリカに追従しすぎる日本を批判している点は、納得できます。真の国粋主義は、共産主義に反対するからと言って、アメリカにも同調しない態度を示します(さらに言えば、戦争で国民を無駄死にさせないで、平和に国力を高めるのです。やたらと軍国色を高めることが右翼ではありません)。アメリカは民主主義の御旗を掲げて、アフガニスタン、イラクと軍事占領を繰り返しています。多くのイラク国民を悲劇に巻き込み、アメリカの若者を犠牲にしながら、ほかの国を「腑抜け」とか、「ならず者」となじる。アメリカ人は、世界中どこへ行っても、英語が通じると思い込んでいる。英語ができないと、野蛮人のように軽蔑する。それに媚びへつらう日本の教養人たち。
 共感できる点、納得できる点もありますが、「謎」と投げ出さないで、もう少し解明された時点での記述を期待したいと思います。

Posted by falcon at 03:13:19 | from category: Main | TrackBacks
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