February 15, 2008

読書は大切だと思う。Oui,mais...

 今、Falconは職場のパソコンルームに通い、eラーニングのモニターをしている。1日約6時間コンピュータの画面とにらめっこしている。こんなにじっくり人の話を聞くのは、司書講習以来である。自分が1日6時間以上話すことは、自分が講師をしている講習ではザラにあることだけど、自分が長時間聴く立場になることは本当に久しぶりである。
 関心のない講義をずーっと聴くのは苦痛だけど、関心があるので、気分が高揚してくる。今年の冬の厳しい寒さで、季節性の鬱状態だったのだが、おかげで元気が出てきた。

 じゃあ、何を聴いているかというと、「読書」についての講義。

 職場の人に頼み込まれて、「せいぜい2時間ぐらいですよ」という言葉に騙されて安請け合いしてしまったのだが、90分の講義が12回、全部で約18時間の講義なのだ。最初の講義でゲンナリした。(たぶん、大学で講義を受けている学生諸君も、似たような気分になって、講師の先生たちと向き合っているのだろうと想像する。これで、少しは思いやりのある先生になれそう!)日本の古典文学の講義で、まわりくどく説明されたなら、読書と関係するけど、「読書と関係ないじゃん!」と言いたくなった。それでも、日本の古典文学は嫌いじゃない、大好きだったし、古典文法の「から、く、かり、し、き、かる、けれ……」なんて形容詞の活用を聞くうちに、ずるずると引き込まれて、楽しんで聴いていた。約3時間、講師の先生が話される『徒然草』、117段の吉田兼好の友人論(これは読まないと損するぞ!)に大笑いしながら、無常の世に思いを馳せた。
 次がマクルーハンのメディア論を中心にした読書についての講義で、真剣にメモを取りながら聴き入ってしまった。「読書が人生を豊かにするのか」という問いを、「なぜ、読書をしたくないのか」という逆説的な問いから考え直す講義だった。と、言ってしまえば、あまりにも簡単なんだけれども、哲学の先生だけに、定義と論理が複雑に絡み合い、プラトン、聖書、現代の思想家の著作からの引用が炸裂して、講師の先生と、思考の「綱引き」をするように、時を過ごしてしまった。
 とかく、「読書は楽しい」「趣味としての読書」「読書は心を豊かにする」という言説が飛び交っている。講師の先生も、そこは否定していない。Falconも否定する気はない。

 さっき、あるブログで、或る学校司書の活動を否定しているのではないかという文章を目にしたが、以前に書いた記事を誤解していないかな?「学校図書館での読書は、あくまでも学習活動の読書である」と主張しているのであって、或る特定の人物の活動を批判しているのではない。似たようなことを考えていても、単なる好悪だけで、感情的なレベルの誤解をする人はよくいるけどね。兼好さんなら「ゆかしき人かな」と思うかもしれない。Falconは「危うきに近寄らず」だけど。

 で、続きを述べると、「新しい電子メディアが登場する中で、現代の社会で読書がどれだけの価値をもちうるのか」という問題に発展して、電子メディアと本の相克と親和について、講師の先生は語っていた。何だ、かんだ言ったって、「文字」で理解することを知ってしまった人類は、「文字」、意味を持つものに等価して転化しうる「記号」を念頭において理解することに慣れてしまい、身体的な感覚を復活して理解することが億劫になっているという。
 (Falconの考え→)そこの観点から考えると、電子メディアの登場は視覚と聴覚を復活させて、文字以外の「記号」を与えてくれたことになる。ならば、視覚と聴覚、あるいは嗅覚まで、さらに雰囲気、空気の流れを感じる触覚、「空気」を読む感覚まで呼び起こす「ストーリーテリング」「読み聞かせ」は、1人で本に向き合って読む「読書(黙読)」という行為は違う次元の問題に思える。
 この約3時間は、思考の、いや、志向の、いや、至高のバトルだった。闘いの果てに1つの「読書観」に到達できた気がした。

 3回目の講義は、村上春樹の『海辺のカフカ』の読み方。
 村上春樹は、デビュー作を『群像』で読み、ジョン・アーヴィングの書評を雑誌『海』で読んで、Paperbackで『ガープの世界』『ホテル・ニューハンプシャー』を読んで、『熊を放つ』を彼の翻訳で読んで、最近『ふしぎな図書館』を読んだけど、あまり興味を持たなかった作家だった。「Falconの嘘つき!春樹が嫌いじゃない訳ないじゃん」でも、ピンと来なかった。
 だが、講師の先生の話に引き込まれて、『海辺のカフカ』が読みたくなった。主人公の少年が図書館に入り浸ると聞いたからには、読まないわけにいかない。さまざまなテクストの交錯、メタファとイメージ……
 またまた、夕方、近所の図書館に駆け込んで、ページがしわしわになった『海辺のカフカ』を借りた。

Posted by falcon at 01:29:34 | from category: Main | TrackBacks
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