September 05, 2012
ヘルシンキのここが穴場!の図書館2スウェーデン文学協会
フィンランド文学協会の図書館を後にして、次に向かったのがスウェーデン文学協会の図書館です。ここは正直言って、予備知識もなく、たまたま大学図書館でもらった付近の図書館ガイドに載っていたので、立ち寄っただけでした。
フィンランド文学協会の建物から北へ向かって、1区画、100mくらい歩いたところにあります。大きな建物の中にあり、フィンランド文学協会よりも目印が無く、通りの名前と番地で推理して、古風な街頭ランプと番地のプレート「5」で、(ここが入口かなあ)と思い、ドアを押したり、引いたりしました。オートロックがかかっていたようで、ドアはびくともしません。ほんの数秒でしたが、ドアのカギが開いたような気がしました。ドアを開けて、2階へあがると、気さくな20代後半ぐらいの若者が受付にいます。
「あのお、ここに図書館ありますか?」と英語で尋ねると、
「図書館を見学にしに来たんだね。ちょっと待って、司書の人を3階から呼びますから」と気さくに応えてくれました。
(昼休みの時間になっているのに、ずいぶんと親切だなあ)
フランスですと、昼休みの時間は絶対に対応してくれません。
受付の若者が電話で司書の人を呼んでくれたのですが、すぐにはやって来ません。しびれを切らした若者が立ちあがると、なんとバミューダパンツ姿で、日本の夏なら仕方ないにしても、フィンランドは夏で暑いとはいえ、日本の初夏のような気候です。ちょっと寒そうでした。
しばらくすると、エレベータが降りてきて、ひげを生やした30〜40代くらいの男性の司書の人が現れました。
「やあ、日本から来たんだね」
「はい、以前、大学図書館で働いていましたが、今は大学で図書館学を教えています」
「早速、図書館を案内するよ」
低い声で話していましたが、明瞭で流暢な英語で、こちらも意識せずに、普通に、自然に会話ができました。Falconは英語に劣等感があるので、こんなに、なめらかに会話ができたのは初めてです。
3階へエレベータで上がると、司書の男性はおもむろにドアをカギで開けます。
「見てわかるように、いくつも椅子が置いてあるのは、ここは会議とか、講演を行うホールなんだ」
たしかに40人ほどが座れる椅子があります。
「正面には19世紀以降のスウェーデン文学に関する刊本(印刷された装丁本)が置いてある。ここは周辺にフィンランド文学協会、国立古文書館、国立図書館、ヘルシンキ大学があって、研究者にとっては便利で、絶好の場所なんだ。何か、知りたいことは?」
全く期待もせずに見学で訪れたので、質問と言われても、困ってしまいました。
「今、特に思いつきませんけど、古い本には興味があります」
正面の壁面書架は4m程度あって、2層になり、階段で上の層の書架に登れます。
「それなら、16世紀以降に印刷された図書を紹介しよう」
ちょうどドア側の壁に沿って、展示ケースがあり、16世紀以降にヨーロッパ各地で印刷された図書が置かれています。
「これは最も初期に北欧、スウェーデンを中心に描かれた地図が載っている地理学の本だよ。次に、パリで印刷された本。これはヴェネチアで印刷された本。これはドイツで印刷された死の舞踏の挿絵が描かれた本だ。死の舞踏はヨーロッパの伝統文化だ」
司書の男性は、突然見学に来た、たった一人の日本人に、親切に説明してくれました。
フィンランド文学協会の図書館に比べたら、資料の量はわずかですが、貴重な本を細かく説明してもらえたので、大満足でした。
「正面の書架だけど、上がってみるかい」
鍵を取り出し、ドアを開けて、階段を上ります。
上の層には19世紀以降の主にスウェーデン文学に関する本が排架されています。しかしながら、文学以外の、宗教書もありました。
「この聖書、面白いよね。ベルベットの表紙の上に、金属の小さな十字架が置かれているだろう。おっと、はずれかかっている。それから、これはカギが付いている図書だ」
「文学とは関係なさそうですけど」
「ふふふ、この書架には装丁の変わった本を集めてみたんだ」
書架を2人で眺めていたら、ふと思いついたらしく、こっちへおいでと手招きするので、招きに従ってゆくと、別の書架から「ちりめん本」を取りだしてくれました。ちりめん本とは明治時代にシワシワの和紙に印刷された手のひらサイズの本で、ちりめんのような感触から、ちりめん本と呼ばれています。
3冊取り出してくれて、明治時代に東京・神田で印刷されたようです。スウェーデン語に翻訳された日本の昔話で、「舌切雀」「桃太郎」「こぶとり爺さん」でした。、
「日本では有名な話かい?」
「日本の子どもたちが良く知っている昔話ですよ」
「ふーん」
「これは、お婆さんが糊を食べた雀の舌を切ってしまって、可哀想な雀をお爺さんが助ける話、これは桃から生まれた男の子がお伴の猿と犬とキジを連れて、鬼が島で鬼たちと戦う話」
「そのとおりだ」
色鮮やかな挿絵で描かれていて、雀たちが着物を羽織っている姿が生き生きと描かれています。
「写真に撮って良いですか?」
「もちろん、構わない」
で、写真に撮ったのですが、暗い中で撮ったので、シャッタースピードが遅く、ブレてしまい、とてもお見せできません。悪しからず。
「ここの資料はデータベースで検索できて、デジタル化されて、インターネットで見られる。見せてあげよう」
司書の部屋へ案内されて、コンピュータの画面に現れるのを見ていましたが、接続環境が悪く、見れませんでした。それにしても、OSがWindows98だったのに驚きました。フィンランドはノキアというヨーロッパ随一の電子関連企業があるというのにー。
「日本に帰ったら、接続してみます。スウェーデン語でもソフトウェアで英語に翻訳できるし」
「そうだね、そうすると良いよ。どうだった?」
「ええ、大変満足しました」
司書の人と受付の人にお礼を言い続けて、スウェーデン文学協会を後にしました。
全然、期待もしていなかったのに、こんなに親切にしてもらって、言葉も出ません。
初めはトラブル続きの大会参加でしたが、スウェーデン文学協会のドアを閉めたとき、思わず感激の涙がこぼれました。
スウェーデン文学協会の図書館は、まさに大穴。ここは絶対に見逃せない図書館です。
司書の人が説明してくれたように、ヘルシンキ大聖堂を取り囲むように図書館、関連施設があります。日本の参加者の多くが、これらを見逃したことは残念の極みです。
23:18:28 |
falcon |
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ヘルシンキのここが穴場!の図書館1フィンランド文学協会
フィンランドに行くなら、ここは絶対に見逃せない!と思っていた図書館がフィンランド文学協会の図書館です。Falconが何故この図書館に興味を持っていたかというと、大学時代に講談社のムーミンシリーズの翻訳家の一人、高橋静男先生にフィンランドの国民叙事詩カレワラについての講義を聴いていたからです。カレワラは19世紀にリョンロートがフィンランド東部に残る民間説話をもとにつくった叙事詩です。フィンランドの民族意識を高めて、ロシアからの独立を導くきっかけになりました。そういえば日本の古事記と比較されます。
リョンロートの民間説話の収集活動を支援したのが、1831年に設立されたフィンランド文学協会です。
フィンランド文学協会は、それ以来、「民話研究の聖地」となりました。民俗学、特に民話を研究する人で、ここを知らないのは恥ずかしい。
民間説話の研究の聖典といえるのが、この本上・下2巻です。
現代教養文庫で出版されていましたが、出版社の社会思想社が経営不振で営業を停止したので、絶版となり、古本でも入手しにくい本です。
巻末に掲載しているテール・タイプ・インデックスとモティーフ・インデックスは貴重です。ぎょうせいで刊行していた叢書『世界の民話』の巻末にもテール・タイプ・インデックスがありました。グリム童話の研究書などにもテール・タイプ・インデックスが掲載されています。
この民話研究に欠かせない資料を管理しているのが、フィンランド文学協会です。
おそらくIFLA大会2日目夕方のオフ・サイト分科会(大会のメイン会場ではなく、別の場所で開催される分科会)に参加しなければ、全く気が付かず、帰国してから、ほぞをかむ思いをしたでしょう。この分科会はヘルシンキ大学の講堂で開催されて、大会前に参加を呼びかけられて、参加しました。テーマは「将来の図書館をデザインする」でした。2017年に新館がオープン予定のヘルシンキ市立図書館の館長、2012年9月に新館がオープンするヘルシンキ大学図書館の館員(大学教員を兼任する)、ヘルシンキ大学の新図書館の建築家、フィンランド国立図書館の館員が、それぞれの図書館の計画、設計、改装について語るというものでした。しかも、講演が終わってから、間もなく開館する(9月開館なので、もうすでに開館しているはず)ヘルシンキ大学図書館カイザー・ハウスでの軽い夕食付きの分科会で、超お得な会でした。
で、この大学図書館で入手した大学周辺の図書館ガイドで、フィンランド文学協会を発見しました。ガイドブックには掲載していません。
場所はヘルシンキ大聖堂の東側の通りです。特に案内板があるわけではないので、フィンランド文学協会のサイトで住所、通りの名前と番地を確認してから行ってください。特に目立つ建物ではありません。
階段を上って扉を開くと、左側に受付があり、「ご用件は?」と英語で尋ねられます。はっきり言えば、「ここはフィンランド文学協会だけど、何しに来たの?」と訊かれます。
「民話のアーカイブがあると聞いたんですけどお」
「ああ、図書館ね。図書館なら2階よ」
「そっ、そうです」
「2階へどうぞ」
翻訳すると、受付の若い女性の科白がぞんざいに感じますが、とても明るい、笑顔の絶えない人でした。
2階に上がると、右側が民話資料のアーカイブで、左側がレファレンスルームになっていて、カウンターの方が、かすかに微笑みながら、「ああ、IFLAの参加者ね。明日、見学会があるわ。この下にも書庫があるから見学してください」と言ってくれました。
レファレンスルームから階段を下りて、書庫に行くと、フィンランド語で出版された文芸書が所狭しと排架されていました。
もちろん、児童文学のコーナーがあります。
いちばん奥の集密書架には民話研究に関する雑誌がありました。
これからフィンランドへ行くなら、ここは絶対に見逃せない図書館です。
18:41:55 |
falcon |
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