December 20, 2007

『タラス:紙の戦(いくさ)』

 西暦740年、世界の富の半分を有すると謳われた繁栄の都ダマスカスの町外れを、ソグド人の隊商が駆け抜けた。そのとき、通りかかったアラブ人の少年アブールは、隊商が落としていった荷物の中に、見たこともない1枚の薄い平べったい異国の文字が書かれたものを拾った。それは、遠く離れた中国で作られた紙だった。
 幼くして両親に先立たれたアブールは、叔父夫婦の家に預けられていたが、ソグド人の隊商に連れられて、ダマスカスと世界の富を二分する唐の都・長安へ旅立つ。行く手にはさまざまな試練が待っていた。
 アブールはソグド人から商売の極意を教わりながら、青年へと成長した。そのころ、長安は玄宗皇帝の下、これまでにない繁栄を極め、町には異国の物資があふれて、華やいだ文化を誇っていた。
 アブールは、隊商が落とした紙を握り締め、中国人の紙漉きの職人の家に出入するようになる。そこで、西域からつれてこられた美しい少女と出会う。
 玄宗皇帝は息子の后だった楊貴妃を見初めて、毎日、閨房にこもり過ごす日々が続く。楊貴妃の兄・楊国忠と安禄山との葛藤。
 西暦750年、西域にアラブ人が侵攻したという知らせが伝わると、唐では高仙芝率いる遠征軍が結成された。そのとき、アブールは中国人の紙漉きの職人たちと遠征軍に加わる。西域の美しい少女との別離。
 そして、西暦751年、西域のタラス河で唐の軍隊とアラブの軍隊が決戦の日を迎える。唐の軍隊は必死に応戦するが、アラブの騎馬軍には到底かなわない。結果は火を見るよりも明らかだった。唐の敗北に終わった。
 アブールは中国の紙漉きの職人たちとともにアラブ軍に捕らわれて、サマルカンドに向かう。そこで、ボロ布を回収して、中国人たちと紙をつくり始める。
 アブールの死後、彼が書き残した手記は、バクダットに伝わり、王宮の書庫に収められた。そこはカリフ・マムーンの時代に作られた「知恵の館」だった。
 それから、およそ1200年あまりの月日が過ぎた。
 2003年4月、イラクの首都バクダッドは連日アメリカ軍による攻撃が続いていた。バクダッドのイラク国立図書館の地下の収蔵庫に、アブールが書き残した手記があることを知った日本の大学図書館職員・長澤由紀は、大学院でアラブ哲学を研究する友人の秋本祐(タスク)とともに、激戦地のイラクに旅立つ。隣国パキスタン経由でイラクに入ると、そこには銃撃を受けて廃墟になったなったイラク国立図書館があった。由紀たちは、アメリカ軍・イギリス軍に、アブールの手記が奪われないように、密かに収蔵庫に潜り込む。ちょうどその頃、アメリカ人ジャーナリストのマークも、アブールの手記を手に入れようと必死に探していた。

 紙が中国から西方へ伝わった秘められた謎、それが記されたアブールの手記をめぐる日本人の図書館職員とアメリカ人のジャーナリストとの争奪、時空を越えた壮大な歴史ロマン。玄宗皇帝と楊貴妃、詩人の杜甫と李白、安禄山たち、繁栄を極める二つの都バクダットと長安、激戦地のイラクとバブル崩壊後の日本を舞台に繰り広げられる虚々実々の物語。

 こんな話だったら、直ぐにも読みたいなあ。
 Falconが勝手に考えた話です。
 

Posted by falcon at 05:35:31 | from category: Main | TrackBacks
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