September 22, 2009

学芸の町フィレンツェの書店

 高校の学校図書館で、卒業までわずかという時に、辻邦生著『春の戴冠』を読んだ。フィレンツェとメディチ家のことを描いた小説とは思わずに、先入観なく、タイトルのカッコ良さで読んでみた。卒業までには読み終えることなく、結局、予備校に通っていた時に神保町で古本屋を漁り、買ってから読んだ。それ以来、フィレンツェはあこがれの町になった。

 実際に行ってみて、観光客が多く、ゴミゴミした町という印象が残った。その前に訪れたボローニャが比較的落ち着いた町だったので、その落差が大きかったせいかもしれない。
 しかしながら、美術館に収蔵された芸術作品は、かつてのフィレンツェの輝きを失っていなかった。
 アカデミア美術館では、ロバート・メイプルソープの写真展が開催されていて、ミケランジェロのダビデ像とのコラボレーションになっていた。メイプルソープの作品の多くに男性の裸体が多い。ミケランジェロは醜男(若い時の怪我が原因だったともいわれるが)だったが、美しい男性が好みだったらしい。この展覧会の狙いがわかる。ちなみにレオナルド・ダ・ヴィンチも男性を好んだというから、この時代の風潮だったのかもしれない。

 おっと余計なことを書いてしまった。

 駅からドゥモ(聖堂)までは歩いてわずかな距離だ。
 夕方、街中でレストランを探していたのだが、まだ食事には時間があったので、書店に入った。
 1階はベストセラーとか文芸書、奥に児童書が置いてあった。入り口の間口は狭いけど、店内は意外と広い。村上春樹氏の著作の翻訳が平積みになっていた。
 2階はコンピュータ技術関係と自然科学と工学関係で、情報学のところに図書館に関する本があるかと思って探したが見つからなかった。
 地階があったので、もしかしたらと思い、降りてみた。法律とか、教育とかがあったので、図書館についての本が見つかると思い期待した。さすがにイタリア語のタイトルを読むのは大変だ。そこで近くにいた店員の人に尋ねた。
 「図書館のことについて書かれた本を探しているのだけれども」
と英語で質問した。
 「イタリアの図書館のことかい?」
 「そうだね」
 「こっちだよ」と教育の棚に導いてくれた。「これがお勧めだ、これなんか、どうかな」とテキパキと教えてくれた。
 なんと2棚が図書館に関する本だった。日本の書店でこれだけ図書館の専門的な本を置いているところは少ない。しかも書店員がすらすらと本を薦めてくれる書店も少ない。
 たまたま親切で有能な書店員に巡り合えたのかもしれないけど、フィレンツェのルネサンス精神は息づいていると感心した。

 宍道先生が書いた『イタリアの図書館』で、イタリアの図書館は文化を尊重すると繰り返していた。一方、公共図書館が発達したイギリスとアメリカ、アメリカの影響を受けた日本では、サービスが中心で、資料のことはおろそかになっている。日本の学生たちに教えていても、サービスについて関心を持っても、資料のことになると「頭が痛くなる、覚えるのが面倒だ」と文句ばかり言っている。分類、目録もコンピュータ目録の操作に気が取られて、資料について学ぶことは少ない。

 イタリアの書店でも、書店員は本について熟知している。客の要求に的確にこたえられる。
 図書館学の本がたくさんあったけど、書店員が薦めてくれた本を買った。最新の公共図書館の本と、イタリアの図書館の歴史の本の2冊だ。写真が多く、イタリア語も平易な言葉で書かれている。この2冊なら、辞書を引きながらでも読めそうだ。

 「会計は1階だよ。アリベデルチ!」
 店員のおじさんも、満足そうに微笑んでいた。

20:30:08 | falcon | comments(0) | TrackBacks