July 06, 2009

いのちの戦場:アルジェリアの悲劇

 日曜日、映画『いのちの戦場:アルジェリア1959』を観てきた。上映する映画館が少ないから、どうせバレルことだ、三軒茶屋の映画館で観た。

 主演はブノワ・マジメルで、映画の企画立案をしたと言われる。舞台は1959年のアルジェリアの高原地帯で、アルジェリア独立「戦争」真っ只中にマジメル演じる若い中尉がやってくるところから始まる。

 ベトナム戦争を描いた『ディア・ハンター』『地獄の黙示録』『プラトーン』『フルメタル・ジャケット』などの影響が強い作品で、フランス語のセリフと荒々しい高原の背景が無ければ、ベトナム戦争を描いたアメリカ映画と感じる部分がある。兵士たちが狂気に陥り、人道主義に揺れ動く心理描写は『地獄の黙示録』を思い出す。

 実は三軒茶屋駅を土曜日に通りかからなければ、この映画のことは全く知らなかった。
 『いのちの戦場』という邦題がインパクトに欠けるし、アルジェリア独立「戦争」は、50代以上の人でヨーロッパ・アフリカ情勢に関心の高い人でないとわからないかもしれない。なにしろ、ベトナム戦争だって、今の大学生は知らないし、東欧革命とベルリンの壁崩壊、湾岸戦争ですら、幼少のときだったので、高校生・大学生にとっては歴史の教科書に封印された一片の情報だ。アルジェリア独立「戦争」と言っても、応仁の乱よりも、知らないかもしれない。
 もちろんFalconもアルジェリアの戦役を同時代的に知っているわけでない。
 チェ・ゲバラのようなヒーローが現れたわけでもなく、多くの国が参戦したのでもないし、フランスとアルジェリアとの間で起こった戦争だったから、国際的にもベトナム戦争ほど関心を呼ぶことはなかった。

 アメリカ映画の派手さはないが、戦争の矛盾、意味のない殺しあいの虚しさがヒシヒシと伝わってくる映画である。

 主演のブノワ・マジメルは、『夜の子供たち』『ピアニスト』『王は踊る』などに出演したのを観たことがあるが、どちらかと言えば、優男っぽくて、こんなに重厚な役柄をこなすとは思えなかった。今回の映画では演技に円熟味がでて、すごい役者だなあと思った。『王は踊る』のときに演じたルイ14世はコミカルで、(男色者として描かれた)音楽家のリュリの気持ちを汲み取らない、いかにもノンケ男だった。ちなみに、この時代、指揮棒は重い杖で、演奏中にリュリが指揮棒で足を怪我して、そこから化膿して死んだため、今の様な軽い指揮棒なった。

 映画の最後の字幕で、フランスは1999年になって、アルジェリアでの戦役を「アルジェリア独立戦争」と認めたとされるのを観たの時に言葉を失った。つまり10年前まで、フランスは公式に「戦争」と認めていなかった。
 アルジェリアは1962年の独立後も、内乱とテロ活動が続き、複雑な中東・アラブ諸国との関係の中で、いまだに安定した状態になっていない。フランスでテロリストというと、真っ先にアルジェリア系の移民が疑われるくらい、フランスとの関係もギクシャクしている。
 作家のカミュのようにアルジェリアで生まれたフランス人も少なくないし、日本人には計り知れない複雑な問題がある。サッカー選手のジダン(アルジェリア系)への思いも錯綜している。

 ユマニズムあふれる戦争映画であることは間違いない。
 今の日本では理念や空想でしか語られなくなった「戦争」を改めて直視したいと感じた。
 すぐ隣の映画館ではトム・クルーズ主演の『ワルキューレ』が上映されていた。さすがに戦争映画のはしごは疲れるので、帰途についた。

02:20:17 | falcon | comments(0) | TrackBacks