March 13, 2009

哺乳類天国、学者は地獄



 やっと読み終えました。
 とにかく夢中になります。このブログを読み続けている人は、Falconが科学少年で古生物学者に憧れていたことはご存知でしょう。いまでも岩山で化石を掘っている夢を見ます。
 イェール大学のピ−ボディ自然史博物館に掲げられたザリンガーが描いたフレスコ画『哺乳類の時代』に着想を得て、中生代末期に恐竜たちが最期を迎える頃から人類が誕生する前夜までの新生代に繁栄を迎える哺乳類たちの歴史絵巻が展開します。なんと150種類にのぼる絶滅哺乳類が登場します。ところが、読み進めてゆくと、不思議なことに当の哺乳類たちよりも、発掘して、研究し、理論を打ち立てた古生物学者たちのほうが深く印象に残ります。
 ラマルク、キュビエ、ダーウィン、ウォレスまでは、進化論でお馴染みの偉人ですが、19世紀に「Bone War(骨戦争)」を繰り広げたマーシュとコープの発掘合戦がすさまじいの一言。恐竜の発掘についてはほとんど触れられませんが、この2人が北アメリカの恐竜の大部分を掘り出したというのだから、驚きそのものです。哺乳類の化石でも、発掘だけでなく、理論においても新聞社を巻き込んでの大激論を戦わせたといいます。名誉欲と学究心の激突は後の語り草とまでなりました。そのあとを継ぐオズボーン(ティラノサウルス・レックスの命名者)の豪快さ、端麗な探検家アンドリュース(映画「インディアナ・ジョーンズ」のモデルの一人)の波乱に満ちたロマンス、進化論の天才シンプソン、サイエンス・ライターのジェイ・グールド……古生物学者たちの確執、罵詈雑言、名誉と破滅、栄光と挫折、愛と平穏、人生のすべてを掛けて、化石に傾ける情熱が伝わってきます。
 古生物と言えば、花形スターは恐竜です。最近では先カンブリア時代の生物やカンブリア時代の三葉虫、アノマロカリス、中生代のアンモナイト、新生代のマンモスなどの著作がありますが、哺乳類の進化について触れられた著作は稀少です。とにかく雑事を忘れて、化石の世界にどっぷり浸かれます。

 科学少年だった人は、ブロントサウルスという恐竜の名前を覚えているでしょう。首の長い最大の恐竜として知られていました。今では、もっと巨大な恐竜が発見されて、その王座を奪われています。そういえば、聞かなくなりましたよね。
 実は、今ではアパトサウルスと呼ばれています。ライバルのコープ(マーシュより年下で、師弟関係でもあったのだが)と発掘競争をしていたマーシュが最初に発見したアパトサウルスと、マーシュ自身が後で発見したブロントサウルスが同種であることが判明して、先に命名したアパトサウルスを正式名に採用されたため、ブロントサウルスの名前が聞かれなくなったのです。
 このことを辞書や百科事典で調べても、実にそっけない説明で、マーシュとコープの発掘競争になんて触れていません。今だにブロントサウルスが見出し語として採用されている百科事典もあります。大きさについても、百科事典と辞書で異なります。ぜひ、比較してみてください。その点、ウィキペディアの説明は捨てがたいものがあります。

 逸話を探りながら、読み進めたら、実に面白く読めました。


03:12:32 | falcon | comments(0) | TrackBacks