April 26, 2008

フランスのドキュマンタリスト教員はこんなにも違う!

 待望の一冊を買って、Falconは少々興奮気味である。
 辻由美さんの『読書教育:フランスの活気ある現場から』(みすず書房)を書店で見つけて、早速購入した。
 正直言って、読みきっていない。なので、著者である辻さんが本書のどこかの箇所で指摘しているところを見落として、的外れな指摘をするかもしれないので、そこのところはご容赦いただきたい。
 そして、このブログで述べることは、辻さんの著書への批評ではなく、注釈程度とご理解していただきたい。辻さんを、フランス語に堪能どころか、斯界の泰斗と敬い、畏れひれ伏すFalconの、無謀な戯言と思って読んでいただけると、気が休まる。

 実は、Falconは、ここ数年フランスの学校図書館事情に興味を持ち、フランスへ行き、調査をしてきた。
 序章で紹介されているパリ読書センターへはFalconも行って、所長の話を聞いたことがある。フランスの幼稚園(保育学校)と小学校には、BCDといわれる学校図書館がある。全ての幼稚園と小学校に置かれているわけではないが、80%以上に設置されている。ただし、司書教諭のような専門教員はおかれていないので、クラス担任の教員が係を分担して、校長が統括して管理運営にあたっている(この状況は、日本の学校図書館と大して変わらない)。幼稚園と小学校のBCDの運営にはかなりばらつきがあり、学校によってはお粗末で、日本の小学校の学校図書館のほうがマシかなあと思う。しかしながら、辻さんが紹介しているようにパリ市ではパリ読書センターで研修して養成されたアニメーター(アニマトゥール)が、市内の幼稚園と小学校のBCDへ出向き、読書教育を担当している。パリ市以外では、保護者や教職経験者、作家などの支援者組織がBCDの活動を支えている。

 辻さんの著作の大半が、高校生ゴンクール賞について叙述されている。ここは、この著作の醍醐味であるし、Falconも辻さんから講演で詳しく伺ったことがあるので、大変勉強になった。

 終章で、フランスの中学校(コレージュ)と高等学校(リセ)・職業高校(職業リセ)の学校図書館CDIに配置されている「司書教諭(辻さんの著作の表現のまま)」について触れているが、日本の読者が誤解してしまうのではないかと懸念している。ここはむしろ直訳に近い形で「ドキュマンタリスト教員」と訳すのが適切だったのではないかと思う。というのも、いわゆる日本の司書教諭とフランスのドキュマンタリスト教員には、あまりにも隔たりがある。
 以前、辻さんではないが、アメリカのライブラリー・メディア・スペシャリスト(教育職)を「学校司書」と訳した方がいた。これは隔たりというよりも無理と言うべきだった。批判と受け取られるといけないので、この方の意図を汲み取ると、日本の学校図書館では学校司書と呼ばれる事務職員(行政職)が、不安定な雇用状況の中で、めざましく活躍しているので、多くの学校司書たちの気持ちを慮って、無理を承知の上で「学校司書」と訳されたのであろう。だからと言って、アメリカの学校図書館の専門教員であるライブラリー・メディア・スペシャリストを「司書教諭」と呼ぶのも違和感が残る。立場としては教育職であるから妥当だとしても、養成のレベル、雇用状況が違う。
 日本の司書教諭は、どちらかと言えば、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの<teacher librarian>に相当する。
 無理は無いけれど、日本の司書教諭とフランスのドキュマンタリスト教員には隔たりがある。
 まず、養成のレベルが違う。日本の司書教諭は教員免許取得のほかに、5科目10単位の司書教諭講習、もしくは講習科目の受講が要件である。専門教育の時間は150時間だ。一方、フランスのドキュマンタリスト教員は、大学卒業後、IUFMという*教職大学院の2年間の養成課程で、教職科目も含めて500時間の専門教育を受けて、長期間にわたる実習が課せられる。もしくは国立放送教育センターで相当な専門課程の通信教育をうける。日本の司書教諭とフランスのドキュマンタリト教員の決定的な違いは、日本の司書教諭が講習で資格を取得して発令されるのに対して、フランスのドキュマンタリト教員は難関の国家試験で資格を取得する(国家試験には、外部試験、内部試験、第3試験、レゼルベがあり、新規採用、職業経験に応じた中途採用がある)。日本の司書教諭はクラス担任・授業担任を兼任するのに対して、フランスのドキュマンタリスト教員はCDI学校図書館の専任教員で、学校図書館で他の教員とチーム・ティーチングする。

 *日本の教職大学院は今のところ、教員免許既得者(現職者と新規採用予定者)を対象に知識と技量を磨く場であるが、フランスのIUMFは教員養成課程の大学院に相当する。大学で専門科目を学んだ後、IUFMで学修して、教員資格を目指して国家試験を受ける。

 日本の学校司書で、司書資格を持ってる人が、司書教諭資格に必要な5科目10単位の少なさを愚弄して、司書資格の20単位345時間を誇示することがあるが、日本の司書教諭は教員免許にプラス司書教諭資格である。所詮、日本の司書教諭も司書も、講習で取得できる点では五十歩百歩の話で、フランスのドキュマンタリスト教員とは比肩できるものではない。
 辻さんは、日本の司書教諭の実情を重々承知した上で、訳したことと拝察した。まことに僭越ながら、注釈させていただく。

00:54:37 | falcon | comments(1) | TrackBacks