October 10, 2014

モンパルナスへいらっしゃい!

 パリへ行くたびに不思議に思っていた。
 モンパルナス・タワーがそびえる庶民の街の地下に、モンパルナス・ビヤンヴニュという地下鉄の駅がある。発音だけ聞く分には、「モンパルナスへいらっしゃい」「モンパルナス、ウェルカム」と意味を考えてしまう。観光都市パリといえども、モンパルナスだけ、いらっしゃいというのも珍妙な気がする。それに「いらっしゃい、ウェルカム」の意味のBienvenueと駅名のビヤンヴニュではちょっと綴りが違う。駅名のビヤンヴニュのuの上にトレマという2つの点が付く。ちょっとググれば、調べがつくのだが、そのうち、わかるだろうと素朴な疑問を放置していた。

 それが、やっとわかった。パリのメトロ創業時の技師だったビヤンヴニュという人の名前に由来する。玉村豊男著『パリ・旅の雑学ノート:カフェ/舗道/メトロ』(中公文庫)に説明がある。
 


 玉村豊男さんって、テレビに出てくる料理好きのオッサンだと思っていた。ところが東大出身でパリに留学した、学識豊富な好人物だったのである。

 この本を読むと、25年前のパリにタイムスリップしたような気がする。Falconがパリへ初めて行ったころの通貨はフランだった。玉村さんが書いているパリはもっと前の姿である。
 そうだなあ、今も変わらぬパリでもあるし、日々刻々と変貌を遂げるパリでもある。観光客が集まる界隈は店もおしゃれになって、東京や他の町と変わらない。ちょっと横道に入ると、40年前も、30年前も、同じ風景が残っている。

 この本には、メトロの由来や、バスやタクシーの語源についても書いてある。タクシーの語源は納得できた。

 そういえば、ポンピドゥ・センターの近くのサンドニ通りにたむろしていた娼婦のお姉さんたちはほとんど見かけなくなった。ピガール周辺でも、「あっ、お姉さんだ!」と気がつくことは無い。いかがわしそうなSex shopやPeeping room(のぞき部屋。男性が脱ぐときもあった)もきょろきょろ見て歩かなければ気がつかない。
 別にその気は無くても、町の雰囲気を醸す情緒が、最近のパリには無い。
 ただし、ゲイのお兄さんたちはかなり目立つ。以前にも報告したように前パリ市長がゲイだったしね。

 地下鉄もバスも日本人観光客に易しくなった。次の駅のアナウンスが聞けるようになったし、バスは車内に次の停留所の掲示が出る。赤のLEDでね。昔は、次の駅、次の停留所がさっぱりわからなくて困った。なにしろ、日本のように地下鉄やバスの車内にアナウンスを流すのは幼稚で未熟な証拠って、フランス人はせせら笑っていた。「日本人は自分の降りる駅がわからないくらい、自立心が無いのよ」と捨て台詞を残すくらい、フランス人は自分の国のシステムに誇りを持っていた。ところが、今は気味が悪いくらい丁寧である。それに地下鉄の最新車両は自動ですべての乗降口のドアが開閉する。玉村さんが記すように、いまだに取っ手やボタンを押して乗り降りするドアを開く車両が多いけど。

 パリの街はかなりきれいになった。フランス人も、さすがに平気でごみを散らかすのは文明国として恥ずかしいということに気が付いたらしい。犬の糞も条例で規制されたので、ほとんど落ちていない。東京の清潔さと比べると、まだまだと言いたくなるけど、健気に努力するパリズィアンたちを評価してあげよう。

 玉村さんの本でパリの水道水の話題には、思わず肯いた。
 腹をこわすのは、旅行者の旅の疲れ、興奮、言葉が自由に話せないもどかしさによる気づかれ等が原因で、水道水そのものが悪いと言えないと断言(?)している。実際、パリで水道水を飲んでも、具合が悪くなることは少ない。むしろ、銘柄は言えないが、ミネラルウォータのほうが硬水で、腹にこたえることが多い。

 ということで、ユーロが通貨になる前のパリを思い出して、胸が締め付けられるくらいに懐かしくなってしまった。

 ああ、玉村さんによると、パリで焼き芋も売っているんだって。パリの焼き栗は有名だけどね。マ〜ロン、ショオ〜という呼び声が聞こえるとパリにも冬の足音が聞こえてくるね。

Posted by falcon at 22:25:31 | from category: Main | TrackBacks
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