March 18, 2014

図書館について随想してみた



 Falconは週末、大阪へ出かけた。
 日本図書館協会の図書館情報学教育部会の研究集会に参加していた。

 で、往復の新幹線の中で、『つながる図書館』を興味深く読んだ。
 ちょっぴり気になった点を指摘しておこう。著者のような公平な立場で、しかも記者の経験があるならば、もう一歩踏み込んで書いてほしかった。登場する図書館のことをヨイショしすぎるところが目立った。たしかに懸命に頑張っている図書館の人たちに、「ここはダメだなあ」とは書けないのは良くわかっている。けどね、世の中、良いこと尽くめじゃない。たとえば、この本のはじめのほうで紹介されている24時間開館している図書館だけど、都会の図書館で、無人で自動貸出ができるとなると、さまざまな危機的な状況を想定しておかなければならない。かといって、職員を置けば、人件費がかかるし、警備員を置いても人件費がかかる。24時間開館できる図書館は、地域社会の絆とセイフティ・ネットがしっかりしているところに設置されていれば、という条件付きなのだ。そこのところを踏み込んでほしかったなあと思う。無論、ほかにもあるけど、ここまで。

 教育部会の研究集会では、これからの図書館情報学教育が話題となった。IFLAのガイドライン、欧州のボロニア・プロジェクト、北米の大学院教育が紹介されて、それぞれ興味深かった。「ちょっと待った!」と思うところがあったけど、Falconも大人になった、余計なことは言わないようにした。

 ところで北米(研究集会ではハワイ大学の先生が発表していたのだが)の図書館学教育は大学院で行われていて、図書館情報学に固執しているように感じられた。アメリカ図書館協会ALAの認定を受けるためで、伝統的な考えと革新的な考えが対立しているとは言っても、「図書館情報学」という枠にとらわれている。

 それに対して、ヨーロッパは「図書館情報学」に対するこだわりはない感じがする。フランスでは図書館情報学を学ぶ大学院で、出版・情報の分野で活躍する人も養成している。以前ブログに書き込んだけど、書店員の資格も図書館職員を養成する課程で取得できる。というのも、現実問題、図書館職員を養成するだけでは、課程が成り立たないからだ。専門職は必要以上に養成する必要はない。発表者からは、ここまで踏み込んだ話が無かったのだけど、当たり前と言えば、当然のことだ。

 実のところ、アメリカの図書館情報学の大学院を出ても、なかなか図書館に就職することは難しい。以前紹介した『どうかお静かに』を読めば、判ることだ。大学院出ても、図書館の臨時職員、アルバイトになるのが、関の山。日本の司書課程と、大して変わらない。
 日本では、馬鹿みたいにアメリカの図書館情報学の大学院を絶賛する人がいるけど、どこも同じ。これだけ情報が簡単に伝わる時代に、舶来品をありたがるようなことはしないでほしい。アメリカを礼賛すれば、知識人だと思われる時代はとっくに終わっている。

 で、アメリカとヨーロッパの図書館に対する考え方の違いはどこから来るのか、その由来をつらつら考えてみた。

 新たな視点を与えてくれたのが次の本である。
 

 お菓子と図書館が何で関係があるのかと言えば、この本で粗食の国イギリスと美食の国フランス・イタリアの比較の箇所に注目したからだ。イギリスの食事は最近、少しはマシになったらしいが、相変わらず不味いらしい。というもの、イギリスはプロテスタントの国、食事も機能重視で労働して腹が減った分を満たせば良いと考えている。それに対して、フランスとイタリア、スペインはカトリックの国、食事も見た目、味、香り、マナーにこだわる。
 同じ大陸側のヨーロッパでも、北欧やオランダ、ドイツなどプロテスタントが多い国では、図書館の考え方も、アメリカやイギリスに近い。

 粗食VS美食、プロテスタントVSカトリックで、図書館の考え方がどのように違うかというと、ざっくり言えば、プロテスタントの国の英米では機能的、カトリックの国のフランス・イタリアでは文化的である。でね、印象をいえば、アメリカの図書館情報学って機能的な考えに縛られて、自由な発想が乏しいなあと思う。そこへいくと、フランスの図書館職員養成について、周辺分野の専門職員養成を取り入れているところが、現実的だなあと思う。

 かといって、カトリックの国とは言え、アイルランドは長いことイギリスの影響を受けたので、食事もイギリスの亜流だし、英国っぽい図書館の制度である。アイルランドのビールは美味しい、海産物も美味いけど、垢ぬけないところはイギリスそのもの。

 ということで、プロテスタントとカトリックと色分けしても、一筋縄ではいかない。
 この一筋縄でいかないところが、学問の醍醐味なんだけどね。
 

Posted by falcon at 00:39:39 | from category: Main | TrackBacks
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