January 29, 2012

資格社会のフランス

 3年前、IFLAミラノ大会でフィレンツェに立ち寄り、図書館に関する本を買い求めたときのエピソードを憶えていますか。
 書店員の人に尋ねたら、即座に図書館学の本のある書棚に案内してくれて、注目の本、基礎的な本を紹介してくれました。このとき買ったのが、昨年、日本でも翻訳された『知の広場:図書館と自由』です。まるで図書館司書のような対応に、呆気にとられました。

 イタリアではありませんが、フランスでは書店員になるためには資格が必要です。しかも、図書館司書と同様の科目を履修して、書物に関する知識と技術を身につけなければなりません。資格があったほうが良い程度ではなく、資格が無いと書店員にはなれません。おそらく、イタリアでも同様の制度があるのでしょう。書店員は立派な専門職です。日本は、その点、誰でも書店員になれる「職業選択の自由」がありますけど、専門職としての地位を保証する制度が未熟です。

 書店員になるのに資格が必要!くらいで、驚いていられません。フランスは、ほとんどの仕事につくためには資格が必要です。リセ(普通科高等学校)を卒業するときに取得するバカロレアは、大学に入学するために必要な資格と思われていますが、それだけでなく、社会の中で職業に就くために必要な資格です。もちろん、小学校卒業の修了証書も、コレージュ(中学校)卒業時の修了証書も、社会で就職するための資格として立派に機能しています。もっとも、小学校は義務教育ですから、卒業時の修了証書はコレージュへ進学するためのパスポートですけどね。職業リセ(職業高校)、農業リセ(農業高校)での職業バカロレア、農業バカロレアも就職するための資格です。

 日本の図書館では資格があってもなくても、余程のことが無いかぎり、待遇に差を付けることがありません。
 それに学歴社会と言っても、公務員試験で学歴で差別されることはありません。国家公務員I種試験を高卒で志願しても受理されます。だから、日本では大学院修了したところで、特別扱いされることを期待するほうが愚かなんです。はっきり言えば、バカそののもと言いきっても良い。

 フランスは明確に学歴と資格にこだわります。学歴と言っても、どこの大学を卒業したかは問題なく、大学で何を学んだかが重視されます。しかしながら、グランゼーコール卒業と、大学卒業とは歴然と区別されます。日本のように東京大学、京都大学、東北大学などの旧帝大、慶応義塾大学、早稲田大学、立命館大学、同志社大学などの有名私立大学を卒業した人が異様に優遇されるということは、フランスではあり得ません。フランスでは何を学んだか、資格はあるかが重要です。
 さらに言えば、日本では東大を卒業したと言うだけで、「七難隠す」ようなことが起きますが、フランスではいくら学歴が立派でも、人柄が悪ければ、最低ランクの人間として扱われます。日本だろが、フランスだろうが、学歴が立派で、人柄が悪いというのは、どう考えても屈折した異常な人間としか思えませんけどね。日本には、学歴を鼻にかけて、態度の悪い人間が実際にいます。

 フランスが資格を重視するのは、フランス大革命で身分制度を廃止して、法のもとでの平等が謳われたので、身分に代わる、社会の中での存在理由のためだと考えられます。この問題は社会学として、興味深いと思っています。

Posted by falcon at 23:29:32 | from category: Main | TrackBacks
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