March 09, 2009

サルコジ大統領「教育者への手紙」

 2007年9月に、サルコジ大統領がフランス全国の教育者85万人に対して「手紙」を出した。「21世紀の教育原則」を確立しようという呼びかけでもあり、マニュフスト声明であった。
 その長大な全文の翻訳が文部科学省『諸外国の教育動向2007年版』(明石書店発行)に掲載されている。
 フランスは、日本と酷似とまではいかないまでも類似して、伝統的に知識偏重型の教育を行ってきた。ところが20世紀末から今世紀にかけて、教育改革を行い、子どもの個性を重視する教育を行ってきた。フランスの教育動向は、振り返ってみると日本の教育動向に大変似ている。
 フランスの教育で、日本と大きく違う点は、公立中等教育学校に入学に関して選抜試験が無いということだ。4年制中学校コレージュから3年制リセへ進学するのに、入学試験は無い。その反面、落第があり、飛び級もある。「フランスは平等主義なのでは?」と思うかもしれないが、能力の差を厳格に見定めている。出自や身分の格差はフランス大革命で、とっくの昔に捨て去ったが、能力の差については厳しい。日本は、その点、何でもかんでも平等を求めたがる。
 前述の訳では「尊敬心」となっているが、サルコジ大統領は「尊敬心」の教育の再構築を重視している。先進国共通の悩みといえるのが、子どもの個性を重視するあまりに教師が尊敬をされない。フランスでは生徒から教師が受ける暴行が絶えない。そこで大統領は子供たちに礼儀を身につけさせたいと訴えている。日本の保守的な政治家が言いそうなことだ。
 長大な手紙の内容を要約するのは困難で、多様な側面を持っている。いくつか言えることは、人文科学と自然科学の「教養」を重視している。教養を身につけるためには、「教室に閉じ込め」ないで、「劇場や博物館、美術館、図書館」などへ行くべきだと述べている。
 知識を押し込む教育にはしたくはない(サルコジ大統領自身、勉強は好きではなかったようだ)が、知識や情報を活用できる知識基盤型経済を確立したいという要求を掲げている。

 一応、「手紙」を翻訳で読んだ限りでは、イギリス・アメリカのような全国統一テストで学校の序列化を行って、学力向上を目指すという知識重視の教育へ落ち込む雰囲気はない。サルコジ大統領は就任前、退陣したブレア首相を尊敬して、「教育を変える」と言っていた。たしかに、教育を変えようとしている。

 フランスの小学校は水曜日(あるいは木曜日)が休みで、コレージュ(中学)とリセ(高校)は水曜日(あるいは木曜日)が半日授業である。学校は土曜日休みでなかったが、土日週休2日制が普及したので小学校は土曜日を休みにしようという方針も教育相が提案している。
 日本は「ゆとり教育」が批判されているが、フランスの学校は伝統的に休みが多い。フランスの小学校は伝統的に週5日制だった。その上、夏休みのほかに、春、秋、冬に10日程度のまとまった休みがある。「ゆとり天国」のように思われるけど、その反面、1日の授業時間が長い。大抵6時間目まであって、4時半くらいまで授業があり、パリでは夕方近くになると小学校の校門の前は出迎える保護者の人だかりができている。
 サルコジ大統領の狙いは、できる限り授業時間数を増やさずに、短い時間で効率的に質の高い教育を国民全員が受けられることを目指しているようだ。本当にそれが上手くいけば、申し分ないのだけれど、世の中は思ったようには進まない。

Posted by falcon at 15:53:57 | from category: Main | TrackBacks
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