August 10, 2013

フランスのカリスマ2人

 1960〜70年代、フレンチ・ポップスが日本でも流行したけど、ほとんど知らない。たしかにダニエル・ヴィダルが歌った「オー・シャンゼリゼ」や、フランス・ギャルが歌った「夢見るシャンソン人形」はなんとなく知っている。シルヴィー・ヴァルタンの「アイドルを探せ」やミッシェル・ポルナレフの「シェリーに口づけ」などは、ときどき耳にするので、記憶している程度だ。この時代の曲は「イエイエ」「イェイイェイ」と言われている。

 このころフランスで大人気のアイドル歌手の伝記映画を渋谷のル・シネマで観た。愛称クロクロ、クロード・フランソワの生涯を描いた『My Way最後のマイウェイ』だ。
 39年の短い生涯で、500曲を残した。まさにカリスマにふさわしい。今年の4月にテレビのNHKフランス語講座で、クロード・フランソワの「アレクサンドラ・アレクサンドリ」を取り上げていたが、この曲が最後の遺作となった。その中には、この映画のタイトルになっている「マイウェイ」の原曲も含まれている。

 「フランク・シナトラが歌ったマイウェイって、英語の曲じゃなかったの?!」

 クロード・フランソワが作った「コムダビチュード(いつものように)」って歌謡曲だ。映画の中では、この曲にまつわるエピソードも描かれている。

 フランス・ギャルとの恋の破局も描かれている。
 クロード・フランソワを演じた俳優さんはベルギーの出身の役者だそうだけど、実にそっくり。また、フランス・ギャルを演じた俳優さんは、実物よりソフトな感じで、そっくりとは言えないけど、本人が演じているのじゃないかと思うほど、雰囲気が似ていた。

 この映画はフランスで大ヒットしたらしいけど、日本ではクロード・フランソワのことを知っている人は少ないと思うので、ピンと来ないかもしれない。
 彼と家族、そして妻たち(何度も結婚している!)の関係が描かれ、ショー・ビズの裏側も見られて、かなり面白い。中盤が盛り上がりに欠けて、ダレてしまったけど、呆気なくも、人気絶頂に、最期を迎えたところは胸打たれた。

 さて、ちょうどこのころ脚光を浴びて、1991年にこの世を去った歌手・タレントのインタビューを編集した「ノーコメントbyゲンスブール」も、渋谷のル・シネマで観た。

 セルジュ・ゲンスブール、英語風に発音すればゲインズブール、フランス語風に発音すればガンズブール。

 歌手だけではない。作詞・作曲もするし、映画製作、画家など、本当にマルチタレントというのにふさわしい。日本でタレントというと、バラエティ番組に出演している芸人さんという印象だけど、文字通りはタレントとは「才能のある人」だから、ゲンスブールのような人のことを言うべきだと思う。
 フランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」の作詞・作曲はゲンスブールだ。

 セルジュ・ゲンスブールを知ったのは、彼の晩年のころだ。フランスに初めて行って、モンパルナス墓地へ直行して、彼の墓に詣でたことも懐かしい。亡くなって2年後だったけど、花園のように、おびただしいほど花が添えられていた。

 映画の中には、ブリジット・バルドー、ジェーン・バーキンや娘のシャルロットも登場するけど、ピアフやフランソワーズ・アルディ、最後にパトリック・ブリュエル(彼も50代だもんね)がちらっと出てくる。ゲンスブールと関わった芸能人は、数多い。

 ゲンスブールの顔を見ていて、寺山修治や吉行淳之介に似ているなあと思った。
 彼の声は晩年、酒とたばこでだみ声になってしまったけど、若いころは美声だった。「枯葉」と作詞したプレヴェールを称えた「プレヴェールに捧ぐ」は、ゲンスブールの声で味わってほしい。湖のように詩情を満々とたたえた唄だ。

 バルドーとのデュエットで問題になった「ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ」は、映画にもなった。ゲイのカップルに、突如現れたロリータッぽい女(ジェーン・バーキン)が割り込む。相手にされなくなったゲイの片割れがで会う、白馬に乗った王子様が、無名に近かったジェラール・ドパルデュだ。フランス映画では重鎮というべき大俳優で、面構えは今では西田敏行さんとどっこいどっこいだけど、若いころはイケメンだった。カトリーヌ・ドヌーヴと共演した「終電車」やベトルーチ監督の「1900年」に出演したころは、水も滴る色男だったのにね。「ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ」、この映画、色々な意味でも勉強になりました。

 「えっ、それって、どういう意味なの?」

 え、まあ、その、だから、ねえ、

 ゲンスブールがこの世を去った1991年、枯葉の季節にイヴ・モンタンがこの世を去った。同じ年に二つの巨星が落ちた。

 そういえば、今年5月にジョルジュ・ムスタキがこの世を去った。シャンソンの大御所も少なくなってきた。
 今夜はムスタキの『私の孤独』を聴いて、寝ようかな。 

21:56:21 | falcon | comments(0) | TrackBacks