August 25, 2012

フランスの学校図書館 In ヘルシンキ

 国際図書館連盟IFLAヘルシンキ大会の学校図書館リソースセンター分科会は「公共図書館との連携・協働」がテーマでした。
 他の人がブログで紹介しているので、詳しいことはそちらに譲ります。
 フランスの研究者が登場して、フランスの小学生、中学生、高校生が公共図書館を、どのくらい利用して、公共図書館がどんなサービスをしているかを発表していたのですが、満足のゆく内容ではありませんでした。
 発表がフランス語でしたので、ワイヤレスの通訳を聴く人が多かったのですが、Falconは敢えてフランス語で聴いてみました。
 パワーポイントの画面は英語で、フランス語の発表を聴きながら、英語とフランス語で理解しなければなりませんでした。
 発表は割とゆっくりでしたから(発表者が通訳に気遣っていたから)、理解しやすかったです。
 ですが、フランスの学校図書館の歴史、幼稚園(保育学校)と小学校(フランスは5年制)にはBCDという学校図書館があるなどの背景と経緯を説明せず、独自に行ったアンケート調査の結果を説明していました。小学校の児童は公共図書館をよく利用しているが、中学校(4年制コレージュ)・高等学校(3年制リセ)などに通う生徒たちは公共図書館をあまり使わない、という内容でした。それは公共図書館が積極的に中学生、高校生にサービスしていないからだという結論だったのですが、これこそ「ちょっと、待った!」です。

 発表者も述べていましたが、フランスは公共図書館の発達が遅れていました。
 色々な理由が考えられます。
 フランスの近代公共図書館の起源はフランス大革命までさかのぼります。革命軍が没収した王侯貴族・修道院の書物を保管する場所が図書館でした。こんな状態が20世紀になっても続いていたので、人気のベストセラーを貸出して利用するという英米、いうなればアングロ・サクソン系の図書館思想が無かったのです。第一次・第二次世界大戦を経て、アメリカの図書館学が導入されて、少しづつですが公共図書館が発展して、1980年代以降、急速に発達しました。1970年代までは古臭い書物が置かれている場所が図書館でしたが、1980年代以降、人々が資料を借りて、情報を活用する場所へ認識が変わったのです。
 もうひとつ、フランス人のアメリカ嫌い(伝統も文化もない生意気な新興国!)・イギリス嫌い(近親憎悪による百年戦争以来の宿敵!)があります。今ではフランスも先進諸国の一員として英米と協調しますが、それでも文化面では反発しています。むしろ、フランス人は日本文化に強烈な憧れを抱いています。フランスでインターネットの導入が遅れたのは、ミニテルという独自の情報システムが発達していたからでもありますが、アメリカ発祥のシステムに抵抗していたためでもあります。

 一方、フランスの学校図書館は、極めて早い時期から発達していました。古くは19世紀、日本では幕末に初等教育学校に学校図書館を設置する通達が出ました。その後、この初等教育学校の図書館は地域に開放されて、学校図書館としての役割が薄れていくのですが、第二次世界大戦後、1950年代から中等教育学校が設置されると、「資料サービス部」という学校図書館が設置されるようになり、1970年代にCDIという呼称に統一されて、本格的な活動を始めて、1989年に学校図書館の専任教員であるドキュマンタリスト教員の資格が創設されて、国家試験で採用された専任教員が配置されます。幼稚園(保育学校)・小学校にもBCDという学校図書館が1980年代以降、国民教育省の通達により設置が勧告されます。BCDには専任の教員も職員も置かれません。
 コレージュ(4年制中学校)やリセ(3年制普通科高校)、職業リセ・農業リセの学校図書館CDIは、ほとんどの学校に設置されて、各学校2名の採用枠でドキュマンタリスト教員が配置されています。CDIには学校の教育に必要な資料もそろっています。
 フランスの中学生や高校生が公共図書館を利用しないのは、公共図書館が積極的にサービスしていないのではなくて、専任のドキュマンタリスト教員がいて、総合的・横断的学習の課題を解決するのに必要な資料が十分にそろっているからです。

 発表の後、フランスからの参加者で、公共図書館の関係者だったと思われるのですが、大変な剣幕で意見を言っていました。早口だったので、ほとんど聞き取れませんでした。
 そして、Falconも厚かましくもフランス語で、意見を述べさせていただきました。「私の意見では、フランスの中学生や高校生が公共図書館をあまり使わないのは、専任のドキュマンタリスト教員が配置されているからだと思います」

 日本にもいますよね。現場経験もなく、現場に入って学ぼうとしない研究者が。

 このフランスの研究者がアンケート調査を行って実証的な研究を試みたことは評価できますが、自国の状況・背景も十分に理解しておらず、国際大会で発表して、極東の参加者に意見を言われてしまうなんて、残念と言うしかありません。
 

22:24:06 | falcon | comments(0) | TrackBacks