October 21, 2012

ケミカル・リテラシー(化学リテラシー)

 立て続けに化学の本を読んでいました。





 『重金属のはなし』はとても興味深い内容です。

 「え〜っ、化学、苦手なんですけど」

 天文学、生命科学、歴史、社会問題まで、幅広い分野で重金属に関する話題が展開します。まさに重金属をテーマにした総合学習です。化学が得意でなくても十分楽しめます。すこし専門的な記述がありますが、次から次へと展開する話題に興味が尽きません。主に水銀、カドミウム、鉛、ヒ素などの毒物、公害に関する叙述が多い。改めて水俣病、イタイイタイ病の恐ろしさを痛感します。ヒ素による土呂久公害は表現するのも憚れるくらい、想像を絶する、凄惨な有り様が描かれます。足尾鉱毒事件は有名な事件ですが、銅が原因だったか、疑問を投げかけています。銅は身近な金属ですし、生物には微量であれば必要な元素です(銅の毒性は低いらしい。猛毒ならば、こんなに身近に無いと思う)。六価クロム汚染事件も、言葉が出ません。恐ろしいことに工業地域では放置されているところもあるようです。低濃度であれば、自然界では毒性の少ない三価クロムに変化するようです。
 鉛ですが、身近な金属なのに、信じられないほど猛毒らしい。自動車のバッテリーにつかっていますよね。鉛蓄電池です。希硫酸と鉛を使った蓄電池で充電できます。もちろん厳重に保管して、リサイクルすることになっています。
 でね、この本で気になったのは、水銀が蓄積されている海獣類と魚類の摂取量を制限する規制があります。海外の基準が影響しています。p.247の表を見ると、クジラ、イルカなどの海獣類と、マグロ類、メカジキ、マカジキ、キンメダイと日本人の大好きな魚ばかりです。たしかにこれらの海獣類・魚類は水銀の蓄積量が多いのかもしれませんが、「日本人、クジラ・イルカ、取るの、イケないねえ。マグロも食べすぎ。その代わり輸入する肉をもっと食べなさい」という欧米各国の思惑が感じられます。公的機関が流す情報でも深読みすると、問題点が見えてくる気がするのです。
 それから、水銀は石油や石炭を燃やすと大気中にまかれてしまいます。だから、アメリカで、日本で採掘がはじまっているシェール・オイルも、水銀汚染を考えると実に恐ろしいことです。経済を優先させると、汚染の問題を忘れがちですが、これまでの公害問題、原発問題をもう一度冷静に考えるべきです。
 同様にレアメタル、レアアースについても、深刻な重金属汚染を引き起こす恐れがあります。情報機器は我々の生活になくてはならないものですが、その陰に重金属汚染が潜んでいることを忘れてはなりません。さらに、レアメタル、レアアースは国際情勢、日本の領土問題にからんでいます。重金属から複雑な社会問題まで、浮かび上がらせる、この著書、ただものではありません。

 さて、吉田たかよしさんの本も、興味が尽きない本です。こちらは、もっとわかりやすく書いているので、中学生でも十分読みこなせます。
 吉田さんといえば、テレビでよく見かける、顔の濃いタレントと思っていたら、とても多才な学者さんなんです。しかも医師免許まである。
 吉田さんは「周期律表が美しいと思うのは自分くらい」と得意ありげに語っています。世間の人の多くが化学は嫌いですね。でも、Falconも美しいと思うし、「周期律」と聞いただけで陶酔します。
 でね、吉田さんの本で、物凄く、残念に感じたのが、土葬された遺体の骨からリン(燐P)が発生して、火の玉が生じましたと、p86で言いきっていることです。伝承ならわかりますが、事実として説明するのは誤っています。骨の成分であるリン酸カルシウムはとても安定した物質ですから、リンが分解されて、発光して火の玉になるのはありえません。火の玉の発生には、メタンガスの燃焼、プラズマ等の説があります。とはいえ、人間の宗教観や恐怖心から火の玉を見てしまうと考えるのが、正確な気がします。
 その他の叙述は的確で、ワクワクするくらい、興味深い内容です。火の玉の件は、ゴースト・ライターが書いたのでしょう。火の玉と幽霊(ゴースト)はつきものと書いているくらいですから。

 それで、言いたかったのは、「情報リテラシー(情報活用能力)」について教えている最中なんですけど、文章が正しく理解できたとしても、その情報が正確で、人間の生活に役立つ情報であるかを見極めるには、基礎知識が必要です。その意味で、化学の知識は色々な意味で重要です。正直言って、天文学の知識や歴史の知識は緊急性が無いし、文学の知識も娯楽として必要かもしれないけど、すべての人に必要とは限らない。読み聞かせで読むような童話は知らなくても、立派に生きていけます。化学の知識は、食品や水、健康、身の回りにある工業製品について考える上で、絶対不可欠です。生きる上で、これほど重要な知識はありません。

 嫌いなんて、言っていられません。放射能汚染を正しく理解するためにも、化学の知識が不可欠です。ケミカル・リテラシーを身につけたいですね。

 「はあーい、わかりましたあー」

11:23:18 | falcon | comments(0) | TrackBacks