July 05, 2011

わたしに話さないで

映画『わたしを離さないで』を見た。
期待通りの作品だった。トミーの役の俳優さん、『ソーシャル・ネットワーク』にも出演していたね。アンドリュー・ガーフィールド君。特別にハンサムではないけれど、さりげない、押さえた演技が上手だなあと思った。でも、トミーの役としては、ちょっと線が細い感じがする。原作のイメージでは、ちょっとおっとりした男の子の感じだった


 寄宿学校の校長役は、日本語訳を読んだときから、シャーロット・ランプリングがするだろうなあと予想していた。彼女以外、あの役はできない。感情を押し殺した、冷徹な表情を浮かべる硬質な女優と言ったら、彼女で決まりの人だ。フランス語が巧みな女優さんで、英国映画とフランス映画では常連。主役も脇役も手堅い。

 原作も日本語に早くから訳されていて、最近では原作者のカズオ・イシグロがNHKの番組に出演したので、ほぼストーリーの核心は知っている人も多いだろう。でも「わたしに話さないで」という人のために、核心に触れないように書こう。

 主人公たちが置かれた立場は、想像を絶するほど過酷で、血も涙もない話である。それが英国の心にしみる美しい田園地帯と海岸を背景に描かれる。その対比が悔しいほどに鮮やかな映像美となる。

 人は社会の中で生きていくためには、他人のために生きている。どんなに自分勝手に生きたくても、自由に自分だけの世界で生きていたくても、不可能である。Falconは自分の世界で生きていたいと常日頃から思っているが、結局、自分の時間を、自分の生活を他の人のために「切り売り」している。
 主人公たちの運命と比べようもないが、誰もが深く共感してしまうのは、我々がすべて他人のために生きている点である。
 他人のために生きて、辛くて苦しくても、「愛」「慈悲」に置き換えて、すり替えて、納得して生きている。

 哀しい宿命は誰もが辿る。 

21:00:58 | falcon | comments(0) | TrackBacks