March 07, 2011

これこそが真の『図書館戦争』part2

 新宿ピカデリーで観てきました。
 昔よく新宿ピカデリーで映画を見ましたが、すっかり立派になりましたね。

 あまり込んでいませんでした。歴史的な事件としては知名度が低く、著名な文学者、芸術家が出てくるわけではないので、多くの人には興味がわかないのかもしれません。

 女性天文学者を演じる女優も美しく、脇を固める男優陣もハンサムぞろいです。映画は見どころが満載で、2時間を超える大作ですが、時間を感じさせない素晴らしい作品でした。

 図書館学の目で細部を観ると、興味深い内容になっています。
 たとえば、女性天文学者ヒュパティアが講義する場面で、受講生たちが必死にメモを取っていますが、何に書いているかというと蝋板です。木の板の内側をくりぬいて、皿のようにして、そこへミツバチの巣から抽出した蝋を流し込みます。蝋が固まったところを金属の棒でキズをつけて、文字を書きました。蝋を溶かせば、再び書き込むことができます。学校のノートとして使われるほか、手紙としても使われました。古代ローマ時代は投書や恋文として、よく使われました。蝋板はかなり長く使われて、中世ヨーロッパでは裁判の記録を付けるのにも使われました。
 何といっても、セラピウム神殿の図書館の場面は重要です。古代エジプトではカヤツリグサの一種からパピルスを作っていました。パピルスはあまり丈夫ではないので巻物として製作されました。本の形ができるのは、獣の皮を使った羊皮紙などが登場してからです。獣の皮は折り曲げに強く、丈夫でしたから本の形にできたのです。だから、ルネサンス以降、描かれる『受胎告知』で、大天使ガブリエルからマリアが神の子を宿したと告げられる場面で、本を読んでいますよね。実は時代考証すると、巻物として描かれるのが妥当です。

 図書館がキリスト教徒たちに襲撃される場面は痛々しいです。

 絶え間なく続く宗教対立、果てしなく広がる宇宙の謎を探究する美貌の天文学者、たまらないですね。

 やはり、図書館に軍隊は必要ありません。断言できます。

22:02:57 | falcon | comments(0) | TrackBacks

これこそが真の『図書館戦争』

 東京地区では3月5日から公開されているスペイン映画『アレクサンドリア』は、絶対見たいと思っている。

 アレクサンドリアは、若くして大帝国を築き上げたアレクサンダー大王にちなんだ、地中海に面した、エジプト第2の都市である。アレクサンダー大王の死後、武将の一人がプトレマイオスと名乗り、王朝を開き、ここを王都とした。ここには大灯台や図書館が建設されて繁栄を極めた。

 アレクサンドリアは学問の町として栄えた。活躍した学者には、古代エジプトの歴史を記したマネトがいる。ちなみに「エジプト第19王朝」といった王朝による時代区分はマネトの記述に従っている。日本では中学校の理科で習う、地球の大きさをはかった地理学者エラトステネス、浮力によって物質の密度を発見したり、円の面積を求めたりしたアリキメデス(シシリア島出身で、ポエニ戦争のときに命を落とす)、図書館学でお馴染みの「ピナケス(書誌、書物の記録、いわば今日の目録・分類の元祖)」を作ったカリマッコスがいた。

 有名な逸話に、プトレマイオス朝最後の女王クレオパトラ7世、そう絶世の美女とたたえられた、フランスの哲学者パスカルが『パンセ』という書物の中で「鼻が低かったら」と言われたクレオパトラが統治していた時代に、王族同士の戦いから発展した内乱がおきて、政敵ポンペイウスを追ってきたローマの武将カエサルの軍隊がクレオパトラに加勢して、その軍隊が放った火のついた矢が図書館に当たって炎上したという話がある。その後、ローマの武将アントニウスにクレオパトラが泣きついて、ペルガモン王国の図書館から書物を持ってこさせたというのは眉唾だろう。
 なにしろ図書館の遺跡が残っていないので、真実は不明である。
 仮に、この逸話が真実だとしても、その後、アレクサンドリアは復興を遂げて、学問の町として栄えた。ローマの五賢帝の一人、ハドリアヌス帝は巡幸のときに訪れて、ギリシア文化を称えている。

 ところが、コンスタンティヌス帝がキリスト教を公認して、テオドシウス帝の時代にキリスト教が国教化されると、アレクサンドリアの学問はキリスト教から「異教扱い」されて、たびたび迫害に合う。古代ギリシアから脈々と引き継がれてきた学問が危機に瀕する。映画は実在の女性天文学者を主人公に、図書館をローマ軍とキリスト教徒の手から守ろうとする人々を描いている。

 まさに書物と学問に命をかけた人たちの『図書館戦争』である。

 話は現代になるけど、ムバラク前大統領とユネスコが建設した新アレクサンドリア図書館は、どうなったのだろうか。この図書館建設のときに多額の寄付をしたのは、イラクの故サダム・フセイン大統領である。

 学問も、図書館も、権力者たちによって翻弄されてしまう。

02:27:25 | falcon | comments(0) | TrackBacks