November 23, 2011

教師はつらいよ!

 「ねえ、ねえ、またパクリ?」

 えっ? どこがですか?

 「だって、(男はつらいよ)に似ているじゃない?」

 まあ、そうですね。そのとおりです。でも、小説や映画のタイトルは、「創作性」が裁判で認められないと著作権侵害になりません。図書のジャケットのデザイン、映画のポスターがそっくりで、内容も類似していて、さらにタイトルまで似ている場合には不正競争防止法の権利侵害になる可能性がありますが、「男はつらいよ」と「教師はつらいよ」では日常会話のレベルで、これで著作権侵害になったら、大変なことになります。

 で、これが問題じゃなくって、教師、それもフランスの教師、もっと限定すれば、フランスの、中等教育の学校の教師がつらいよとこぼしたくなる、呟きたくなる、ぼやきたくなるくらいに大変なんです。

 フランスの中等教育の学校には、日本の中学校に相当するコレージュ、普通科高校に相当するリセ、職業科高校に相当する職業リセ、農業リセ(フランスの農水省管轄)があります。コレージュは4年制、リセは3年制、職業リセは2年制ないしは4年制です。小学校に当たるエコール・プリメールは5年制なので、日本が6・3・3制なのに対して、フランスは5・4・3制なんですね。
 そのコレージュとリセの先生になるためには、CAPES(体育教員と科学技術教員には別の資格がある)という資格認定証が必要で、国家試験で取得するのですが、NHKラジオテキスト『まいにちフランス語』11月号のp.79(訳文はp.107)の記事によれば、2011年のCAPES試験の数学、英語、古典文学、近代文学で候補者の定員割れが起こっているらしい。そのため987のポストが空いていて、不合格だった受験生を非常勤講師として雇うらしい。

 日本では公立学校の教職に就きたくても、なかなかなれないのに、フランスは事情が異なる。
 テキストの記事にもあるが、フランスの教員の年収は日本と比べて少ない。フランスで若者が教員をめざさない最大の理由である。しかも給料は上がらない。視学官(jury)が定期的にやってきて、授業の内容を評価して、給与の査定が決まるからで、この評価は厳正である。フランスの40代の中堅教員で、年収400万円くらいが多い。日本の中堅教員の年収は600万円ぐらいで、フランスはその3分の2である。イングランドはもっと低い。給与が抑えられている分、福利厚生が良いのかもしれないけど。
 フランスの教員は、特に中等教育学校では敬意を払われないし、つまり先生としてのまともな扱いはされていない、そのうえ、生徒たちから殴られる、つまり、ボコボコにされることがある。以前、フランスは体罰が厳しいお国柄だったけれども、20年くらい前から生徒から教員への暴行事件が絶えない。そのため、ますます若者が教師になりたがらない。フランスには「熱血教員物語」は通用しない。そこで、リセでは生徒たちに社会のルールを学ばせるためにシティズンシップ教育「社会教育の時間」が設けられている。いわば、校内暴力対策の一環である。この理由が生徒たちから教師への暴行だから、情けない。

 日本はモンスターペアレンツの問題など、教師の権威も昔ほど高くはなくなったけど、それでも儒教の精神は根付いていて、先生に対する敬意は払われる。
 日本の公立学校の教師は残業が多いし、校務分掌でがんじがらめになっている。それに対して、フランスは週の就業時間をきっちり守り、残業はほとんどない。そのうえ、フランスは学校の休みが多い。復活祭(パック)前後の春休み、夏のバカンス、秋休み、クリスマス休暇があり、小学校は水曜日(もしくは木曜日)も休みで、コレージュとリセは水曜日の午後は休みする学校が多い。その代わり、ほかの平日の時間割が5時間目、6時間目まで埋まっていて、小学校でも夕方まで授業があったりする。

 こうやって比較すると、日本とフランス、どっちにしても、教師の置かれた環境は、楽とは言えない。
 先生としてのプライドが保てて、給料の高い日本と、時間的な余裕があっても、教師の権威は失墜して、給料の低いフランス。
 それぞれの社会事情が影響しているけれども、教師はつらいよ!には変わりない気がする。

 ところで、フランスでも学校図書館専任教員であるドキュマンタリスト教員の人気は高い。この職種だけは定員割れしないようだ。

01:16:00 | falcon | comments(0) | TrackBacks