January 08, 2011

蟻族とフリーター

 正月、ドラマ『フリーター、家を買う』を全編ではないがところどころ見た。妹がジャニーズ系のタレントが出演している番組を欠かさず観ているので、感想を聞いたら、「お母さん役の浅野温子さんがうつ病になってしまって、話が暗いから、途中で見るのをやめた」と言っていた。もちろん、有川浩の原作であることは知っている。うむ、たしかに話は暗い。フリーターの経験のあるFalconにとっては、ちっとは共感できることもある。大学時代、発掘現場でアルバイトしたことがあるので、ネコ(土砂を運ぶ一輪車を意味する、土木関係者が使う隠語)で土を運んだこともあるから、主人公の二宮君がネコを倒して土をこぼししてしまう場面を見て、つい、ほろっときた。
 明るくシャキシャキしている役が多い浅野温子さんがうつ病の役をするのは無理な設定だったなあと思った。久しぶりの坂口良子さんが悪役とは、これもピンとこない。
 竹中直人さんの父親役と井川遥さんのお姉さん役はハマっていた。二人の演技で話がビシッとまとまっていた。原作は読んでいないが、ドラマの筋立ては良かった。
 母親が苛めから鬱になるのは、『ストーリーセラー』を思わせて、作家の心の暗部を見せつけられる。そのため、主人公が影になってしまう。心の暗部を見せつけるよりも、突き放して描いたほうが、話が味わい深く感じられる。

 ところで、例の『蟻族』を読み終えた。
 こちらも暗い話の連続だ。日本のフリーターに比べ、中国の蟻族は恐ろしく深刻だ。ほとんどが地方出身者で、最近になって急増した二流大学、三流大学、まさに下流大学出身者、そのため、北京などの大都市周辺の安いアパート暮らしをしている。地方の学校では優秀な成績で周囲からちやほやされた「秀才」も、大都市の大学では下流大学の末席を汚す程度にしかならない。大都市の生活にあこがれても、なじめない。安い賃金で働きながら、それなりの居心地の良さから、地方に戻れない。親元で就活に励む日本のフリーターよりもぐっと深刻な状況にある。
 しかしながら、中国の蟻族には、それなりのしたたかさがある。

 『蟻族』を読んで、エドワード・ファウラー著『山谷ブルース』(新潮OH!文庫)(品切れで、図書館で借りるか、古本屋で入手できる)を思い出した。どや街に住む低賃金労働者の哀愁を歌った歌のタイトルを付けた社会人類学の名著で、アメリカ人の若い研究者が描いた作品である。



 『蟻族』よりも、もっと暗い現実が描きだされる。読むと、しばらく気が抜けて、落ち込むかもしれないので、影響を受けやすい人は避けたほうが懸命だと思う。
 

04:02:16 | falcon | comments(0) | TrackBacks