March 29, 2010

カノッサの屈辱〜大日本幕府と凸版朝廷〜

 昔、フジテレビの深夜番組はサブカルチャー・教養番組が多かった。タレントのきたろう氏と在野の哲学者・小阪修平氏の『哲学の傲慢』『哲学の小部屋』、白井晃さんとアリとキリギリスの石井正則が案内役の『お厚いのがお好き』は難解な哲学、世界の名著をきわめてわかりやすく解説してくれた。

 かつてのフジの深夜番組の中で傑作だったのが『カノッサの屈辱』である。鬼籍に入った俳優の仲谷昇氏が教授役、牧原俊幸アナウンサーのナレーションで、現代日本の風俗や流行の商品の歴史を世界史や日本史の事件になぞらえて解説するという、ある意味、まじめな受験生には迷惑な番組だった。世界史・日本史の知識が無ければ笑えないイタイ設定だったが、非常に面白かった。

 去年からホットな業界は出版業界である。大日本印刷・TRC・丸善・ジュンク堂・Bookoff連合と凸版印刷・紀伊國屋書店
連合の勢力拡大に、取次店、つまり出版流通業の日販、トーハン、大阪屋の勢力が絡み合い、さらにアマゾンなどのネット販売、電子出版に新たな勢力の参入と、大変面白い状況になっている。

 大日本印刷と丸善とジュンク堂の連携を「善ク年の益(前九年の役)」、講談社・小学館・集英社のBookoff株取得を「講三社の益(後三年の役)」とか、やってくれると面白いのだけれども。

 文学部の学生たちの就職先として希望が多いのが出版社なんだけれども、学生たちはほとんど出版社について知らない。
 一応、教え子たちのことを考えると、隔靴掻痒というか、実に歯がゆい。
 多くの大学の文学部は、先生も学生も、世間ズレしていない。いや、違う。正確にいえば、世間の常識からズレている。そのくせ、鼻っ柱が高いのだ。
 一応、図書館学の科目で出版業界の話をするけれども、学生たちの就職意識の低さに愕然とする。
 文学部の先生たちの浮世離れには、危機感を感じる。

22:16:30 | falcon | comments(0) | TrackBacks

ローマとくれば風呂

 去年から気になっていたコミックがあった。
 『テルマエ・ロマエ』だ。ただ、表紙のジャケットにギリシア彫刻のような男のハダカが描かれている。もし内容がヤバかったら、人目を憚る。
 王ブラで紹介されて人気に火が付いたらしい。それならば、安心だ。そして購入した。

 別にヤバくなかった。多少それなりのエピソードは出てくる。なにしろ風呂だから。
 ローマ帝国時代と現代の日本をタイムスリップするローマの若い技師が主人公なのだが、時代が五賢帝のひとり、ハドリアヌス統治のころだ。ハドリアヌスの時代はローマ帝国が空前絶後の繁栄を迎えた時代だ。ハドリアヌスはギリシア文化にあこがれ、妻が居ながらも、美少年を愛した皇帝だ。それなりの危険な雰囲気が漂いながらも、ちっともエロくない。
 そんなことはどうでもいい。その若い技師が風呂に入ると、なぜか突然、現代日本の風呂や温泉にタイムスリップしてしまう。そこで、日本の優れた技術にたじろぎ、ローマ人の誇りを胸に秘めて、見聞を深めて、古代ローマへ日本の技術と着想を持ち帰る話だ。

 読み始めた時は男性が描いていると思った。作者のエピソードでイスラム圏のハマムへ行った話があって、女風呂に入ったと書かれてあったので、そこで作者が女性であることがわかった。何しろ、カタカナで著者名が書かれてあったので、注意深く考えなかった。

 図書館学の視点でコミックをながめると、面白い。
 パピルスの使い方が笑えたし、興味深かった。
 コミック本の最後で、主人公の技師の妻が離縁を書き残す面で、蝋板が出てくる。これは木の板を浅くくりぬいて、そこにミツバチの巣から作った蜜蝋を流し込み、固まったらば、金属の棒で傷をつけて文字を書きつける。文字を消すとき、書きなおすときには、蝋を溶かして、冷やして固めて、書く。何度も書き込めるので、ヨーロッパでは古代から中世まで、ノート(覚書)、手紙、裁判所の記録などに使われたメディアである。古代ローマ人は蝋板を手紙として用いて、恋文のやり取りをしていた。

 時代設定は異なるが、ロバート・ハリス著『ポンペイの四日間』(ハヤカワ文庫,2005)を思い起こさせる。こちらは、およそ60年前の皇帝ティトゥスの時代である。この小説は深刻な内容だけれども。

13:17:09 | falcon | comments(0) | TrackBacks