January 16, 2010

【悪女】の読書論

 有吉佐和子著『悪女について』には、子どもの読書についての考えが述べられている個所がある。
 富小路公子の長男・鈴木義彦の語る証言にその一節はある。
 
 「母は、また、本をよく買ってくれました。それが、童話が多いのです。」
 「僕は子供の頃から童話は好きじゃありませんでした。大人が書いた童話には子供を舐めてかかっているようなものが多いのが気に喰わなかったのですよ。子供は、自分が大人と同じに遇されるのを望んでいるものじゃないでしょうか。」

 公子の長男・鈴木義彦が母親の買ってくる本に満足しないと意見を表明すると、公子は息子の成長ぶりを喜んで「世界文学全集」「日本文学全集」を買い与える。しかしながら、長男・義男は理系に進み、東京大学に合格する。

 義男に語らせている読書論は、有吉佐和子氏自身の子どもに対する読書論であろう。長編小説の中のわずか3ページであるが、意味深長な言説である。
 公立図書館、学校図書館に、読書好きのおばさんボランティアが押し掛けてくる。子どものためにと、躍起になって、童話・児童文学を押し付ける。子どもの気持ちも考えないで、読書を押し付けても意味が無い。読書好きのおばさんたちの勘違いには呆れ果てる。本当に読書を知っている人はボランティアをするはずがない。子供たち自身が読みたい本を知っている。

22:41:14 | falcon | comments(0) | TrackBacks