April 05, 2009

『教室へ』

 今年のカンヌ映画祭のパルム・ドール賞を受賞して、アカデミー賞の外国語映画賞を『おくりびと』と競ったとも言われる映画の原作が『教室へ』である。

 

 原作の原タイトルはEntre les murs、文字通り訳せば、『囲まれた壁の中に』あるいは『塀の中に』となる。「塀の中」と言えば、刑務所だけれども、この作品では学校の教室なのだ。
 パリの19区のコレージュ(4年制中学校)が舞台。主人公はフランス語教師、生徒たちは移民系の子どもたち。日本で教師ものと言えば、『飛びだせ青春』『熱中時代』『金八先生』(←ウッ、歳がばれる)のような熱血先生と子どもたちの交流を描いたものが多いけど、話は全く正反対。かと言って、天海祐希さん主演で話題を呼んだ『女王の教室』のような厳しい教師だけれども子どもたちを懸命に見守る教師でもない。
 教室で帽子を脱がない生徒を注意する。むやみに笑い出す女子生徒を注意する。これらは日本でもごく当たり前のことなのだが、主人公の場合、粘着質で、そのうえ、生徒に侮辱的な言葉を使う。それで堂々としていれば良いのだが、生徒に指摘されると内心、狼狽する。日本じゃ、セクハラだの、アカハラだの、新聞種になりそうなことを平気でやってのける教師なのだ。
 周りの教師たちも、ストレスのために鬱病質の教師、職員会議でおしゃべりしている教師、コピー機に四苦八苦している教師、コーヒーメーカーに苦情を言っている教師と、一癖も二癖もある。
 エピソードが途切れ途切れで続くので、読みづらい。しかし、それが作者の意図に沿っている。学校の日常は、一環としてしない。一時間もののドラマのように、一つの事件が継続して、最後に一件落着というわけではない。さまざまなことが輻輳的に起こる。
 当然のことながら、フランス語の文法が出てくるので、学習者には興味深いけど、苦手な人には拒否反応だろう。
 フランスの学校制度については、訳者による丁寧な解説があり、これも興味深い。フランスの学校制度は、5・4・3制。就学前教育には幼稚園(保育学校)があり、小学校が5年制、コレージュ(中等前期課程、中学校に相当)が4年制、リセ(中等後期課程、高等学校に相当)であり、リセには普通科リセ、技術科リセ、職業リセ、農業リセなどに分かれる。コレージュからリセへは入学試験はないが、家庭の事情も考慮されて、おもに成績によって振り分けられる。
 学年の数え方が日本と異なる。日本の小学校1年生が「11年生」で、コレージュは入学した生徒は6年生で、5年生、4年生、3年生となり、3年制普通科では2年生、1年生、最終学年生となる。実は、この作品を読んでおいて役に立った。学校の先生と話すとき、フランスの学年の数え方が理解できた。

 読み終えて、疑問が残った。
 著者自身、教員経験があって、それに基づいて描かれている。著者はリセの教員になり、その後、コレージュの教員になった。著者が教員になったころには、すでにドキュマンタリスト教員(学校図書館の専任教員)が配置され始めたころになる。ドキュメンタリスト教員の資格証(CAPES)が創設されたのが1989年、教員資格証の国家試験(コンクール)で採用が始まったのが1990年だから、首都パリ19区にドキュマンタリスト教員がいても、おかしくない。作品には明確に示されていないが、ドキュマンタリスト教員がいたのかもしれない。Falconが2004年にパリへ行ったときには、ドキュマンタリスト教員がいたけどね。
 今年でドキュマンタリスト教員の資格証が創設されて20年になるが、国家試験で資格証を取得したものが、順次採用されるので、すべてのコレージュとリセにドキュマンタリスト教員がいるわけではない。まだ、配置されていない学校もあるし、授業を担任しながら学校図書館の仕事を受け持つドキュマンタリスト教員もいるし、一人のドキュマンタリスト教員が複数校を兼任する場合もある。ドキュマンタリスト教員のいない学校では、教員資格証を持たない「学校司書」が配置されている場合もある。この作品の舞台の学校には、ドキュマンタリスト教員がいないのかもしれない。



 フランスのオーベルニュ地方の小学校を舞台にした映画Etre et avoir(邦題:ぼくの好きな先生)には、「中学に進学すると、図書館にドキュマンタリスト教員(字幕では「司書」だったけど!)がいますよ」という説明のシーンがあった。

 『教室へ』は映画化されたが、Falconが今回訪れた時にはロードショウが終わり、パリの1,2の映画館で限定上映されてていて、FNACではDVDが売られていた。
 テレビの放送形式には主にヨーロッパ諸国が採用しているPAL、フランスなどで採用しているSECAM、日本とアメリカなどが採用しているNTSCがある。パリのFNACで『教室へ』のDVDを買おうと思ったが諦めた。字幕もなく、放送方式を変換しなければならないと考えると、かえって高くつく。
 日本での公開は2010年、岩波ホールでだそうである。早く公開されることを望む。

08:49:15 | falcon | comments(0) | TrackBacks