January 22, 2009

驚異!悪魔の聖書

 際物続きで、読み飽きた人もいるだろう。

 昨日(1月22日)、国立国会図書館(永田町)で、スウェーデン国立図書館館長グンナー・サーリン氏の講演会が行われたので、参加した。演題は「デジタル化時代のスウェーデン国立図書館の挑戦」だった。
 いくつか興味深い話題があった。

 一つは"Codex Gigas"(直訳すれば「巨大な古い手稿本」、「悪魔の聖書」とも呼ばれる)のデジタル化である。もともとは12世紀ごろにボヘミア地方、チェコの首都プラハで制作されたものらしい。17世紀、ちょうどドイツ30年戦争のころにスウェーデンにもたらされて、スウェーデン国立図書館所蔵の至宝となっている。総重量が75kg(人の体重に匹敵する!)もある、世界最大級の古写本で、縦89cm・横49cmの獣皮紙に手書きされた310ページの聖書である。獣皮紙と一口に言っても、よく知られているのが羊皮紙(パーチメント)で羊の皮を筆写用に使ったものだが、ほかにも子牛の皮を使った犢皮紙(とくひし、ヴェラム)、山羊の皮も使われることもあった。このCodex Gigasには子牛の皮のヴェラムがかなり使われているらしいが、ヴェラムのほかに羊皮紙などの他の獣皮も使われているらしく、一部に何とロバの皮!も使われているという。そのうえ、悪魔を描いたページもあり、黒魔術との関係も指摘されているが、聖書の古写本の一つであることに違いはないだろう。
 Codex Gigasのデジタル化には膨大な費用と労力を要したらしい。きっかけはチェコでCodex Gigasの展示会を開くという話がチェコの首相からスウェーデンの前首相に伝えられたことだった。
 各ページをインターネットで見ることができる。

 http://www.kb.se/codex-gigas/eng/Browse-the-Manuscript/

 ちなみに悪魔のページはこちら

 悪魔と言っても、ユーモラスで、かわいらしい。
 意味は違うけど、コーデックス・ギガスは「鳥獣戯画」を思い起こさせる。

 Codex Gigasのデジタル化の大きな成果は、世界の研究者がわざわざスウェーデン国立図書館へ足を運ばなくても、いつでも閲覧できるという「時空を超えたサービス」にあると館長であるサーリン氏は述べていた。

 二つ目は、2009年1月にスウェーデン国立図書館がスウェーデン国立録音・動画アーカイブと統合をしたことだ。これにより、国内で放送されたラジオやテレビの放送もサービスできる。またスウェーデン国立図書館は国立公文書館、博物館、美術館とも共同事業を行っている。スウェーデン国立図書館では、スウェーデンの旅行記のデジタル化を進めていて、16世紀以降の新聞のデジタル化も行っているが、これからの課題として20世紀以降の新聞のデジタル化も進めていきたいと館長は述べている。解決しなければならない問題として、現物の保存、マイクロ資料への複製を併用すること、著作権関連だとも述べていた。

 講演の後、国立国会図書館館長・日本図書館協会会長の長尾真しとの対談で、スウェーデン国立図書館が昨年の11月に独自の分類法SABシステムからデューイ十進分類法に切り替えたことをサーリン氏は述べていた。
 以前、Falconがスウェーデンのマルメ市(スウェーデン最南端の町で、デンマークのコペンハーゲン市と海峡を隔てて、橋でつながっている)へ行ったとき、学校図書館や市立図書館の分類が見慣れないシステムなので戸惑った。職員の人に聞いたら、「スウェーデン独自の分類法だよ」と言って、微笑むだけで詳しくは説明してもらえなかったのを記憶している。
 西ヨーロッパの国の多くの図書館が、デューイ十進分類法か、国際十進分類法を採用しているが、これまでスウェーデンは独自の分類法を採用していた。
 分類を切り替えるというのは、図書館にとって大変な作業を要するプロジェクトだ。サーリン氏は、「スウェーデンの図書館が世界とつながるためには必要だった」と、苦渋の決断を振り返りながら、笑顔で語っていた。

 ということで、実りある講演を聞けて、大変嬉しい思いで満たされた1日だった。

12:34:41 | falcon | comments(0) | TrackBacks