May 28, 2007

江戸の香りと図書館の匂いを

 書店に入った瞬間、どこからか図書館の匂いがする。
 いつのまにやら、吸い寄せられるように、平積みの本の前にいた。タイトルには「図書館」の文字はない。けど、図書館の匂いがする。絶対、この本に違いない。
 目次を開くと、小見出しから、モワーッと匂い立つ。



 著者の栗原智久氏は、鶴見大学の図書館司書課程修了とある。もしかして夏季の司書講習のことかもしれない。現在、江戸東京博物館で司書をなさっている。この図書は江戸時代に関するレファレンスブックになるべく著された。司書が書くから、ページから匂いが漏れるのだ。
 江戸時代について書かれている図書は、やたらと多い。勿論、江戸時代を舞台にした小説、映画、テレビドラマは無数にある。最近では、時代考証をもとにテレビドラマの粗捜しをする図書もある。確かに、江戸時代は260年も続いたのだから、女性の髪型も大きく変化している。『忠臣蔵』の元禄時代と『遠山の金さん』の天保時代では違っていて当然で、流行に敏感な江戸庶民が何十年も同じ髪型をしていたとは到底考えられない。
 『日本随筆大成』などに収録された江戸時代の随筆をもとに、江戸の生活に触れる内容になっている。暦のことや衣食住のことを随筆のあちこちの文章から探している。これだけ紹介されると、実際に『日本随筆大成』で調べてみたくなるが、残念なことに小さな図書館では『日本随筆大成』を所蔵していない。あったとしても、書庫に入っていたりする。
 それにしても、この本のおかげで、江戸時代を体験するのに大きな導きを得た。

 Falconは大学時代、国文学を学んでいたが、『源氏物語』を読んでいた。指導にあたってくれた先生が、講義中に「江戸時代の作品を研究すると身が持たない」と、しばしばおっしゃっていた。理由は古事記、万葉集、源氏物語よりも、関連する作品を相当多く読まなければならないからで、江戸時代の文人たちが随筆を残しているおかげで、調べ尽くそうとすると一生かかっても終わらない。さらに、遊里の文学ともなると、その深みにはまれば、金も人生も精力も費やすはめになる。だから、うーんと古い作品を研究していたほうが無難と、我が師はおっしゃっていた。

 Falconは新宿の生まれで、両親も東京出身なので、ちゃきちゃきの江戸っ子を名乗るのはおこがましいが、一応、江戸っ子の端くれである。ときどき銀座や日本橋、深川のあたりを歩いていると、江戸の香りがすることがある。文学の深みにはまらなくとも、江戸の香りをせめて図書館の匂いとともに味わってみたいと、この本をパラパラとめくって思った。できれば、続編を期待する。知りたいことは尽きない。一生かかっても無理と、忠告してくれた師の言葉がいたく響く。

01:41:24 | falcon | comments(0) | TrackBacks

May 27, 2007

フィンランドの学校と図書館

 これまで日本では、OECDの国際学力調査PISAでトップになったフィンランドの教育に関心が集まり、関連書が刊行されてきました。しかしながら、フィンランドに滞在した日本人の研究者が見聞した事柄が多く、「本当のところはどうなのか?」という疑念がぬぐえませんでした。つまり、日本人として都合の良いところを伝えているのではないか、日本人の読者が喜びそうなところを書いているのではないかという疑念です。日本人が書いた外国の見聞記の多くが、個人的な体験に基づく、「日本人の目、知覚」というフィルターを通したものでした。

 「フランス人は英語を知っていても話さない」という、ガイドブックに載っている「迷信」を頑なに信じている人が、いまだに健在しているのはお笑い種でしかありません。パリでは若い人ほど、教養の高い人ほど、外国人である日本人と英語で話す傾向があります。折角、フランス語を覚えていっても、英語で話されるのがオチ。ところが、地方に行くと英語はほとんど通じません。といのも、フランス人にとっても学校で習う現代外国語としての「英語」は、多くの日本人と同様、苦手なのです。「英語とフランス語は文法も語彙も似ているじゃないか!」と言っても、大半の日本人が近しい東洋の言語であるハングルや中国語をほとんど話せないのと同じです。それに、フランス語の徹底した「国語」教育が施されますから、日本人が日本語を学ぶ以上に、「国語」であるフランス語を身につけるのです。移住民にも「同化政策」で、フランス語を身につけさせるので、パリでは移民の子孫の黒人やアラブ系の人たちのほうが、惚れ惚れするくらいにフランス語を流暢に話すのを聞いたことがあります。見聞記は参考になっても、信じたら危険です。自分の目で、耳で、見聞きしたことを様々な情報に照らし合わせて検討する必要があるのです。
 「わたしたち、学者じゃないから、そんな小難しいこと考えないよ!ただ、楽しめば良いの!」
 観光バスで巡って、高級レストランで食事して、帰ってきてから、自慢話するなら、それはそれで良いのです。個人の勝手ですから。

 話を元に戻します。
 最近、日本のフィンランド大使館内にあるフィンランドセンターの所長ヘイッキ・マキパー氏が著した本が刊行されました。



 この本でいくつかの疑念が解消されると思います。

 残念ですが、フィンランドの学校図書館の記述はほとんどありません。
 北欧諸国の学校図書館ですが、なんと言っても、デンマークの国民学校の学校図書館の制度が優れています。デンマークとスウェーデンの学校図書館は見学したことがありますが、Falconはフィンランドの学校図書館を訪れたことが無いので、関係者の伝聞でしかありませんけど、正直言って、財政的に豊かでないし、蔵書も少なく、IT先進国(ヨーロッパでコンピュータと携帯電話の最大の市場規模を誇るノキアがある)でありながら、設備は貧弱だそうです。フィンランドの学校図書館は、協会組織があるので、これからで、発展途上のようです。
 多くの日本人は北欧と聞くと、憧憬を懐きますが、実際に行って見ると、付加価値税が上乗せされるので、物価が高いのに驚かされます。旅行者のホテル代や食事代は税金のリターンは無いので、支払のたびに日本の税制のありがたさを噛み締めずにはいられません。ルター派の信仰に根づく国民性は質実剛健で、日本人の気質に近いところもあります。

04:04:28 | falcon | comments(0) | TrackBacks

May 24, 2007

パゾリーニから横溝へ

 『アラビアンナイト』の映画といえば、ディズニー映画の『アラジン』も忘れ難いけど、西尾哲夫氏の著作で紹介されていたイタリアの映画監督パゾリーニの『アラビアンナイト』も秀逸です。
 Falconが高校生の頃、日本で公開されたとき、18禁でしたので、残念ながら見ることは叶いませんでした。確かに岩波文庫版『千一夜物語』も、想像にたがわず、かなりきわどい性的な表現が出てきます。映画は、大人になってから、渋谷のユーロスペースのパゾリーニ特集の上映で鑑賞できました。ポルノ映画くらい凄いのかと思っていましたが、『千一夜物語』のエッセンスをユーモアを込めて描いたものでした。ほどよいエロスが漂い、今だったら18禁ほどかな?と思います。

 パゾリーニと言えば、特集上映で『カンタベリー物語』『デカメロン』『奇跡の丘』『ソドムの市』など、主要作品を見ることができました。
 なかでも『ソドムの市』は衝撃的でした。見て、しばらくは、気になって仕方がありませんでした。残酷な映画は大好きでしたので、残酷さにはなれていましたが、底抜けに残酷な『ゾンビ』『13日の金曜日』とは違う、意味ありげな残酷さが頭の隅にこびりつくんです。それに糞尿が出てくるので、ぐっときます。
 もともと、マルキ・ド・サド(サド侯爵)の原作です。サド作品ではアンシャン・レジーム期、フランス革命前のフランスを舞台にしていますが、映画では北イタリアの収容所を舞台に、ファシスト党の幹部が少年少女をいたぶる姿を描いています。
 サドはフランス革命前の貴族や聖職者たちのおぞましい悪行を描き、作品を通じて痛烈な社会批判をしています。パゾリーニは、サド作品に仮託しながら、ファシスト党への批判をしているのですね。単なるエログロではありません。

 ところで、ファシストの語源は、ローマ時代の斧に巻きつけたものにさかのぼるようです。斧そのものもファッショと呼んだらしい。トランプカードのキングが持っている、あの斧です。
 斧といえば、『犬神家の人々』にでてくる斧(よき)です。斧(よき)がファシストを暗示するとしたら、あの作品も単なる残酷な探偵小説とは思えませんね。でも、娯楽作品として楽しむべきでしょう。

01:18:03 | falcon | comments(0) | TrackBacks

May 21, 2007

眠れぬ夜はアラビアン・ナイト

 Falconは最近、睡眠不足です。

 もうすぐ夏。体調を崩してやめていた腹筋運動を復活して、週3回はプールで泳いでいます。お腹の脹らみが減ってきたのに、体重が増えている。これはもしかして筋肉がついたのか?こんなに運動しているのに、眠れない。尤も、背泳をして、鼻に水が入って、鼻詰まりで寝苦しいのもありますけど。

 睡眠不足になる理由は、「千一夜物語」にはまってしまったからです。たまたま本屋で見つけて、面白く読んだのが、西尾哲夫著『アラビアンナイト:文明のはざまに生まれた物語』(岩波新書)でした。
 読んでもいないのに、知ったつもりになっていた『アラビアンナイト』こと『千一夜物語』でしたが、もともとは千一夜ではなかったかもしれない、さらには「アラジン」「アリババと40人の盗賊」「シンドバット」は、後から付け加えられた話だったかもしれないと、次から次へと意外な真実が解き明かされて、驚きの連続。写本を求めて、世界各地の図書館へ訪れた著者の話には興味が尽きず、まさに『アラビアンナイト』をめぐる図書館情報学、書誌学ともいえる内容になっています。口承文藝、児童文学、好色文学、世界文学への変容、日本への受容史など様々な観点から、話題が泉のように湧き出して、『千一夜物語』を読まずにはいられなくなります。



 そこで、早速、岩波文庫『千一夜物語』に手を出したのです。
 随分前に第1巻と第2巻を買ってあったのですが、第1巻の数ページ読んで、厭きてしまっていました。
 ところが、今回は違います。寝る前に読むのですが、あっという間に1時間近く読み耽ってしまい、眠れなくなってしまいます。そう、この話は、眠れずに苦しむ王様のために宮廷の女シェヘラザードが語る話ですから、眠れないわけです。
 甘美なエロスと魅惑的で不可思議なファンタジーの連続、あー、今夜も眠れない、朝になれば、仕事へ行かねばならないのに!もうだめだ。
 昼間読めば良いのに!
 ええ、わかっています。でも、夜でなければ、面白くありません。
千一夜も続くのかー。

 『アラビアンナイト』といえば、昔、テレビで見たアニメ番組『ハクション大魔王』が思い出されます。くしゃみをすると、壷の中からハクション大魔王が出てくるお話。あくびをすると、壷から飛び出てくるアクビちゃんもかわいかったなー。大魔王が魔法を使って、主人公のカンちゃんを助けてくれる。ドラえもんとのび太くんみたいな関係なんだけど、大魔王は食いしん坊で、かなり間抜けで笑えました。

02:33:36 | falcon | comments(0) | TrackBacks

May 08, 2007

紙芝居は夢芝居

 鈴木常勝さんの『紙芝居がやってきた!』を読んで以来、紙芝居の世界にどっぷり浸っています。幼い日のことが次から次へと思い出されて、ちょっと現実逃避気味です。
 こんな楽しい「おっちゃん」、鈴木さんが紙芝居をはじめた頃は「兄ちゃん」だったんですね、面白い「兄ちゃん」に出会っていたら、Falconの人生も変わっていたかもしれません。幼い日に『黄金バット』を紙芝居で見ることができたFalconも、その日の記憶を辿れることを考えると、幸せです。
 中野の川島通りに近い公園でした。今は弥生町と言いますが、あの頃は神明町でした。
 で、今度は鈴木常勝さんの『紙芝居は楽しいぞ!』(岩波ジュニア新書;563)を読んでいます。



 鈴木常勝さんには申し訳ありませんが、誤植を見つけてしまいました。2007年4月20日第1刷です。紙芝居『蝋人形』(「蝋」は旧字体です。)のあらすじの中で、金貸しの名前がp.94では「安倍純一郎」とあり、p.95-96では「安倍の家」「安倍一家」「安部純一郎」とあります。「安倍」でしょうか、「安部」でしょうか、どちらでしょう。紙芝居『蝋人形』では「安倍(安部)純一郎」は人を苦しめる悪人の金貸しなんですね。「安倍純一郎」とすると、現首相の姓と前首相の名を合わせた名前になります。Falconは、二人の方へおべっか使うつもりではありませんが、安倍さんも小泉さんも悪い人ではないと思っています。(取り巻きの一部に「人を苦しめる」悪人もいたかもしれませんけど)あっ、あくまでも、紙芝居の話ですから、お二人とも気分を害すことが無いように。岩波ジュニア新書の編集部の方が、この記事を読まれましたらば、鈴木常勝さんへご確認ください。次の刷に訂正ができると良いですね。

21:32:34 | falcon | comments(0) | TrackBacks