December 27, 2006

ローマ帝国が滅びる!

 とうとう塩野七生さんの『ローマ人の物語』が完結しました。
 Falconが塩野さんの著作を最初に読んだのは、『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』でした。以来、すっかりファンになり、何冊か読んでいます。『ローマ人の物語』もすべて読んだわけではありませんが、買ってあります。一番印象に残っているのは、「第2巻ハンニバル戦記」です。これを読んで、チュニジアへ行きたくなって、行ってしまったのです。まだ、日本人がチュニジアを知らなかった頃です。その後、イスラエルへ行く機会があり、アリタリア航空でローマにトランジットして行ったので、イスラエルへの行き帰りに、ローマに合計三泊しました。おかげでキリスト教の遺跡を概観できたし、ローマの主要な遺跡・名所も巡りました。
 魅力的な皇帝は、ハドリアヌス帝です。複雑な性格と卓抜した政治手腕は、他に類を見ないでしょう。悪帝とされたカリグラ、ネロ、ドミティアヌス、カラカラも、本当はまともな皇帝なのではないかと、塩野さんの作品を読んで思いました。他にどうしようもない皇帝たちも沢山いましたからね。後世の人は都合のいいように評価します。塩野さんの作品の興味深い点は、一人の人間を多方面から解釈していて、「私はこう思う」と断言しても、読者に考える余地を残してくれる点です。
 さて、惣領冬実著;原基晶監修『チェーザレ破壊の創造者』講談社は、漫画でチェーザレ・ボルジアの生涯を辿る作品です。塩野版のチェーザレ像と読み比べてみようと思って、続巻を楽しみにしています。
 ローマと言えば、デヴィット・ヒューソン著『死者の季節』も、読んでいる最中です。ヴァチカン図書館で起こった殺人から幕を開ける連続殺人事件。展開が楽しみな作品です。カラヴァッジョの絵画をインターネットで検索しながら、楽しんでいます。図書館を舞台に描くのなら、「悪」を「悪」として、「罪」を「罪」として描いてほしい。「正義感」を持ち出して、戦闘行為に及ぶのは、どこかのアホな政治家たちに任しておけばいいと思います。

03:33:22 | falcon | comments(0) | TrackBacks

December 18, 2006

図書館の本を大切に

 先日、読売新聞夕刊の1面に、図書館の本が書き込みされたり、ページを切り抜かれたりしていることが問題になっている記事が掲載されていました。

 そういえば、ずいぶん前に公開された映画で、劇作家ジョー・オートンの半生を描いた『プリック・アップ』(原題:Prick up your ears)で、オートンが公共図書館で借りた大量の本のページを切り抜いて、逮捕されて、1962年禁錮6ヶ月の刑で刑務所に送られたエピソードを思い出しました。1960年代に起こった事件で、当時の図書館関連の雑誌にも、その経緯が載っています。オートンは、ロンドンのイズリントン地区の公共図書館から借りた大量の本(写真集など)から、ページを切り抜き、自分の住んでいた部屋の壁にコラージュのように貼っていたのです。その部屋の写真は、映画の原作になった本にありました。当時のイギリスでは、図書館の本を汚損、破損すると、刑務所行きだったのです。
 オートンは刑務所に収監されたことをきっかけに、劇作家への道を歩みだすのですが、仕事が順調になった矢先に、ゲイの友人に撲殺されます。映画の原題は、原作となった本の題名です。文字通り訳せば「聞き耳を立てろ!」ですが、日本で公開されたときの映画の題名は原題の2語になっていて、意味深長なニュアンスをかもし出しています。本を汚損、破損したことだけでなく、オートンがゲイだったことも、刑に服する結果になったと思われています。当時、同性愛は罪だったのです。映画の『アナザー・カントリー』や『モーリス』は、こうしたことが背景となって描かれているのです。
 『プリック・アップ』では、多彩な役柄を演じるゲイリー・オールドマンが、劇作家オートンを演じています。地味ーな映画でしたが、図書館オタクには見所はあります。


14:35:27 | falcon | comments(0) | TrackBacks

December 01, 2006

わたしを離さないで

カズオ・イシグロ著『わたしを離さないで』を読み終わりました。正直な感想は、怖かった。話は淡々と展開します。主人公キャスの回想が語られます。
前半は美しく淡々と他愛のないことが語られます。中盤から後半へ、次第に謎が深まります。
過酷な現実を受け入れる主人公たちの姿に胸打たれます。
さようなら、キャス、トミー、ルース。



22:54:51 | falcon | comments(0) | TrackBacks